輸入オタクに捧げるバラッド
「そんなの文化じゃないだろ!!」
そのバイヤーは驚いた。
とんでもなくバカだったのである。前任者が。
そのバイヤーは仕事の引継ぎを受けて数日をかけ、書類を見ていた。取引先の状況や、契約書、そして担当者とのやりとり。
気になったことがいくつかあった。
そのうちの一つに、「なぜこんなに輸入しているものが多いのだろう」ということだった。
もちろん、安く買うための手法として否定はせぬ。
しかし、だ。単純なトランスなどは、日本のサプライヤーから調達してもあまり変わらないのではないか。
「なぜ、こんなものまで輸入に頼る必要があるのだ」と引継ぎ書類を見れば見るほど疑念が積もってゆく。
その質問を投げかけてみても、その前任者からは「輸入拡大しないと、安いものは買えない」という答えが返ってくるだけ。
しかも、そのほとんどのサプライヤーと取引契約書はおろか、覚書すらも締結した形跡がない。
そのことを問いただしたところ、その前任者は「まぁ、そういう文化だから」というだけ。「あんなにサプライヤーに厳しい契約なんて、結んでくれるのは日本のサプライヤーだけだよ」と言い放った。
だから、バイヤーは呆れつつも、こう言わざるを得なかった。
「そんなの文化の違いじゃないですよ、仕事をしていなかっただけですよ」と。
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そのバイヤーは私だった。
なぜ、大企業の購買部ほど、なにかあるごとに「輸入を拡大しましょう!」と叫ぶだけのバイヤーが増えるのだろう。
その多くが、自己の英語力を自慢したい(くせに実はたいしたことがない)か、あるいは出張で海外行きを狙っているか、のどちらかである可能性が半分を超える。
「あー忙しい。あー忙しい」と言っている人のほとんどが、忙しいフリをしているだけの「見苦しい人」であるように、「輸入を!輸入を!」とだけ繰り返すバイヤーは輸入自体を自己目的化していることに気づくことすらない。
私は外国人から「英語上手いね」と言ってもらえる程度のレベルではあるけれど、意外に輸入拡大には慎重な考えを持っている。
元高の中国を見たり、労働組合の過剰な力が支障となり身動きのとれない欧米を見たりすると、輸入の効用というものを素直に信じられない。
日本で生産するものは日本から調達し、海外で生産するものはそれぞれの生産国内のサプライヤーから調達する方が、むやみに輸入をするよりもずっとリーズナブルだと思う。
だから、自分の英語力を自慢するように(だが、繰り返しそんなに上手くない)英語で海外に電話しまくっているバイヤーの姿を見ると、なんだか哀れに見えてくる。
このeメール時代に、海外のサプライヤーと付き合う必要があるとして、どれだけ出張と電話の必要性があるかを考えてみた方がいい。
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私の最初の例に戻っておこう。
海外のサプライヤーと付き合いを開始するときに必要なことは、と訊かれてもよくわからない。
それは、「海外の」という枕詞に関係なく、必要であることは国内外を問わず必要だからだ。
国内のサプライヤーと必要なことは、海外のサプライヤーとも必要だ。
「海外のサプライヤーは、なかなかこちらの契約書にサインをくれないんだよね」と言って契約自体を放棄しているバイヤーは、まともに交渉していないことは間違いない。
もちろん、国内のサプライヤーに比して注意を喚起せねばいけないことは本当だろうけれども、後々問題になることのほとんどはバイヤーとサプライヤー間のコミュニケーションギャップであることはもっと意識されてよい。
取引における不明瞭な点をできるだけ廃して、円滑なモノの受発注を可能とするものが契約とするならば、それは文化の差異に関係なく合意しておくべきものだからだ。
輸入オタクになるのはよいけれど、まずは仕事の基本をちゃんとしてくれよ、と言いたくなる人にその後も何人も出会った。
会社のカネを動かすからといってそんなに簡単に取引を開始してよいのかよ、と思う。
そういえば、この前不動産屋から、若い人であればあるほど「こっちが大丈夫?と思うほど物件をほとんど見ずに決めてしまう」のだという。年配者であればあれこれとクレームをつけてくるから、それに比べれば上客であるには違いないけれど。
自分のカネですら他人任せにしてしまう国民性だから、会社のカネともなれば適当になるのか、とも思う。
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私はかつて、輸入している製品の中で「国内のサプライヤーに変更した方がこれだけ安くなる」という資料を示したことがある。
そこでの輸入オタクたちの回答は、「そんなよく分からないサプライヤーを使用できるのか?」という懐疑に満ちたものだった。
一回二回くらいしか顔を合わせていない海外のサプライヤーと、2時間で会いに行けるサプライヤーのどちらが安心できるか考えてみればいい。
私は逆に「なぜあなたは既存の海外サプライヤーをそこまで信頼できるのか」と訊いてやった。
私が言いたいのは、「なんのための輸入か」ということである。単に輸入率を増したいだけか、それとも本当にそこから調達する意義とメリットのあるものか。「ずっと輸入しているものだから」などという愚にも付かぬ言い訳ではないだろうな、と。
半径500Kmのサプライヤーすらもロクに調査していないのに、いきなり輸入検討したわけではないだろうな、と言いたいだけなのだ。
海外出張趣味でマイレージを貯めることだけに血眼になっているバイヤーがいたらこの場でお詫び申し上げる。
ごめんね。
「バイヤーは輸入議論では正論を吐け!」