見積書を捨てよ、街へ出よう

「じゃあ、いくらになるんだよ!!」

目の前の営業マンが突然怒り出せば、誰だって気持ちの良いものじゃない。

しかも、それが営業マンの事務所の中だったらなおさらだ。

月末のことだった。

バイヤーは月末の単価決定処理に追われていた。何十枚もの見積書が目の前にあった。

「これは良い、これはダメ」そうやって次々と処理していく。運悪く「ダメ」と認定されたものは電話かメールで伝え、すぐさま訂正見積を送ってもらう。

その中で、「なかなかこれは厳しいな」というものがあった。

月末最終週に突然納入が決まった製品。見積り依頼も、見積査定もロクにできないまま納入してしまっているのだから、何らかの対価は支払わねばならない。

それが--、ひどい。

通常の2倍程度の見積り。さっと見ただけで、通常よりも高いところが分かる。

早速電話しても、「こっちだって安くするのは厳しい」との返答。

バイヤーは他の単価決定を終わらせると、すぐさまそのサプライヤーの営業マンの元に出向いた。

そこで始まる雰囲気の悪い交渉。「ここは高そう」「ああ、ここも高そう」と営業マンの見積書に赤ペンで印を付けていくバイヤー。

それに対して、「もう、この見積りのままで良いじゃないですか」と呆れる営業マン。

それでも止めないバイヤーの「ここも違う、これも高い」の指摘。

営業マンは突然、叫んだ。

「知らないよっ、そんなこと言われたって!じゃあ、いくらにすればいいんだよ!」。

夜9時にしては似合わない大声が響いていた。

・・・・

そのバイヤーは私だった。

私の単価決定のまずさを示すエピソードだった。

バイヤーが見積りを入手する。すると、まずは(その価格が妥当なのかもわかっていないくせに)「これ高いよ」と言うようにトレーニングされていた頃のことである。

200円だろうが、2,000円だろうが、20,000円だろうが関係ない。

まずは「高いよ」とサプライヤーに言えば良いだけだから楽な話だ。

何を出しても「高い」と言われるだけであれば、サプライヤーは、

1.バイヤーは阿呆だと理解できる

2.次回以降はどうせ値下げさせられるだけだから、本当に「高い」見積りを出せる

という素晴らしい利点はあるものの、バイヤーから見たら、それは単に損失にすぎない。

だから、逆にサプライヤーから「いくらが妥当なのか教えてもらえませんか?」と訊かれれば、曖昧なことしか言えない。

いや、見積書を入手した後だったら、適当にその2割減額を伝えることもできるかもしれない。

しかし、見積り入手前にそんな質問が届けば、無言になるしかないバイヤーはたくさんいる。

・・・・

私は営業マンの友人がたくさんいるが、こういうバイヤーの特性を知っているので「まずバイヤーに妥当な額を訊いてみろ」と言っている。

なんらかの回答すら返ってこなければ、そこに売るのは止めた方が良い。せっかく安い金額を提示しても、そこから叩き下げられるだけだから。

たとえそれがお客であっても、阿呆と付き合うのはあなたの人生のムダでしかないでしょう、とも。

困ったことに、このアドバイスが冗談としてしか思ってもらえないのであるが。

まあたしかに付き合わなければいけない場合だってある。

だが、こういう客であれば、ヘンな理屈をこねてもらうよりも、「理屈はないんだけど、あと20円下げて」と言ってもらったほうがずっと気持ちが良い。

「これって、市場価格よりも高いし、サイズ的に言っても小さいし、プロセスだって進化しているし。そうだなあ、あと30円くらいなんとかならない?」と交渉されるよりも、「あと30円下げて。調達部門には理屈なんて無いよ」と言われた方がずっとシンプルだ。

となれば、最も「会う価値のなかったバイヤー」は昔の私ということになる。

わはは。

笑っている場合ではない。

・・・・

私が営業マンから怒られていたとき、ふと見た私の右手には赤ペンがあった。

そうか。

自分は他人の作ってくれたものを色々と批判することはできる。だが、それはしょせん赤ペンで他人にイチャモンをつける行為でしかない。

例えば--、私に対して白紙を突き出されたら、私は何を書けただろう。

赤ペンで訂正することはできても、真っ白な紙の上には何も書けない。計算も、価格を組み立てることもできない。

赤ペンは目立つ。しかし、それは印字された黒字があってのことだ。赤ペンだけでは、何もできない。

ならば、私たちは。

赤ペンを捨てよう。そして、黒いペンを手に取ろう。自分の、自分だけの絵を描こう。そして、サプライヤーの見積りだけをベースとした他人本位の調達は止めよう。

他人をベースにすることを止めたら、全て自分で考えなければいけない。この製品の妥当的な価格はいくらか。このようなときはどのように調達すべきか。

そのような考えをもとに、一人一人のバイヤーがもがき苦しんだとき。そして、これまでにない調達像を創り上げたとき。

もはや、そのときは赤ペンを持ってはいられない。それを捨て、白紙に描くための黒いペンを手に取ることになる。

「赤えんぴつバイヤーから、黒えんぴつバイヤーを目指せ!」

 

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