連載11回目「購買はモノを買ってXXを売る」~日本人のノーベル賞受賞 その2 調達・購買取引先メーカー

前回はあるオランダ人が唱えた、日本HOW文化説とヨーロッパWHY文化説のなかで、日本の製造業(調達・購買の取引先メーカーでもあります)はさまざまな仕組みを生み出し、その人の言うHOW文化を結実させたことを述べました。さらに、21世紀に入って以降に自然科学分野での日本人のノーベル賞受賞の輩出という事実をもとにすると、日本にもWHY文化は古くからあったことも強調しました。

再び、このオランダ人のHOW文化、WHY文化という言葉をかりると、調達・購買の取引先メーカーである日本の製造業を強くしてきたのはHOW文化だけだったのでしょうか。WHY文化はなかったのでしょうか。さらには、HOW文化とWHY文化だけだったのでしょうか。

これを、素材産業、部品産業、加工産業での実例、ならびにある外国人の発言から考えてみたいと思います。

1. 素材産業

素材産業においては、化学産業が大きな役割を果たしています。製造関連のプロセス技術では、大量生産のためのフ ロー法、機能性化学品は、少量多品種製造なのでバッチ法を発展させてきました。また、材料自体は、光学材料、磁性材料、導電・絶縁材料、伝熱・遮熱材料、触媒、などの様々な機能材料が、用途により粒子、繊維、フィルム、シート、膜、などの形状で開発されてきました。日本のこれらの産業の調達・購買取引先メーカーは、このような技術・製品開発により、さまざまな業界へ付加価値を提供してきたのです。

エレクトロニクス業界は、このような技術・製品を活用して、自社の電池やディスプレイなどの製品開発をしてきたのです。また、自動車産業では車体の軽量化及び実用化に向けて、低コスト化を図る新構造材の技術・製品開発が貢献してきています。このような新素材の技術・製品開発では、有機機能性材料メーカーと科学研究機関の本格的な連携が進められていると言われています。連携による、日本のメーカーと研究機関がそれぞれもっているHOW文化とWHY文化の混合相乗効果をねらったものです。

2. 部品産業

自動車関連では、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)などの次世代自動車の進化を向けのデバイス技術開発が進んでいることは推察できます。車載情報通信系デバイスなどの新技術・新製品の技術・製品開発も重要でしょう。

また、移動通信端末関連では、超小型高性能部品、ならびに今後の市場本格化への期待が高まるウェアラブル情報端末(腕時計型端末、眼鏡型端末など)への搭載される微細部品も開発されています。そのほか、部品業界が今後の市場として重要視している、環境/エネルギー関連や、医療/ヘルスケア関連などの分野での重要部品の開発も進められています。

部品としては華やかなスポット・ライトは浴びませんが、鉛フリー化が円熟期にはいり、はんだメーカーによる実装技術へのさらなる付加価値提供が予想されます。さらに、機構部品の例では、超小型の圧接コンタクトの製品が開発されていますが、この部品分野での進化をもたらすことも予想されます。この分野では、部品メーカー、完成品メーカーそして部品や状況に応じて、研究機関がそれぞれのHOW文化、WHY文化を発揮しながら連携をとりつつ技術・製品開発をする姿が浮かんできます。

3. 加工産業

加工技術産業では小規模企業や中小企業で受託型加工業者も多いのが実態です。営業力、特にマーケティング力に乏しいため、優れた技術開発が表に出にくい面もあります。従業員14名ながら、大企業とともに製造業関連の賞を受賞しているような切削技術を駆使する企業もあります。この会社が加工したあるサンプル品は、世界最小であることからギネスブックにも掲載されていますし、高等学校の物理の教科書にも取り上げられているそうです。

切削業界全般の話ですが、この切削技術では、例えば新規素材の加工技術、低環境負荷加工技術、高能率加工技術、高精度加工技術、多軸加工機・複合加工機を用いた複雑形状の加工技術などが飛躍的に進化してきています。また、高機能など高い付加価値を求める超精密微細加工とは対照的に、低コスト化やリードタイム向上をもたらす、高能率切削技術も開発されています。

ここまで切削加工での取り組みと成果を主体に述べましたが、加工産業でのHOW文化とWHY文化の連携はどうなのでしょうか。行政が主導して、あるプログラムの革新的設計生産技術においては、切削技術および工作機械技術の高度化を推進する研究プロジェクトが複数採択されているとのことです。大学研究機関、大企業とともに中堅の加工会社もこのグループの一員になっています。IoT・AI活用を志向した知能化技術が進化への対応だとおもいます。

以上のいくつかの産業での例からわかる通り、日本の製造業である調達・購買取引先メーカーは、日々の研究開発や製造現場での発見と工夫により、技術や製品を開拓し深化させてきたのです。これは、それらを進めてきた研究者、技術者、製造現場の人たちの持っている「こだわり」ではないでしょうか。「より良いものを作りたいという」ある意味で「完璧を求める心」です。

私がまだ20代のころ、先輩の知人のあるイギリス人が、「日本人は大理石という自然物にたいしても完璧さを求める」ということを言っていました。この人は、海外から大理石などを輸入し日本の顧客に販売している商社の営業マネジャーでした。その人は、自ら輸入している大理石の販売先である顧客からの見栄えへの厳しい要求にこのような嘆きともいえる言葉を吐いたのでした。

これは、誉め言葉ではなく、「日本人は自然が作り出すものに完璧をもとめるような非合理な考えをする、どうしようもない国民だ」という、あきれた日本人を見下した言葉だったのです。しかし、このようなあらゆるものに完璧さを求める文化が、日本の製造業の発展を支えた一つの要素だったのです。

別な表現をすれば、日本の調達・購買取引先の技術開発・製品開発を支えてきた基本的な考えは、
HOW(応用)は言うまでもなく、WHY(原理)もあり、さらにWHAT(絶対価値)があったといえます。このWHAT(絶対価値)の文化を、調達・購買の取引先である、日本の部品・材料メーカーで具体的に言えば、どこまでも機能を高く、どこまでも小さく、どこまでも軽く、などを求める文化だといえます。

次回は、日本人のノーベル賞受賞報道に関連して頻繁に報告された中国の科学の躍進について述べ、中国の製造業はどのようなものなのかを考察してみたいと思います。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

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