連載10回目「購買はモノを買ってXXを売る」~日本人のノーベル賞受賞と調達・購買取引先メーカー その1

今年は、医学生理学で日本人がノーベル賞を受賞しました。21世紀になってからは、自然科学の分野では、日本人のノーベル賞受賞者数は、アメリカに次いで2番目とのことです。

日本人のノーベル賞受賞者の報道を聴くと、いつも思い出す話があります。それは、30年ほど前のことですが、あるヨーロッパ人の言葉です。その頃は、私は欧州系のある総合電機メーカーに勤めていました。その会社では、入社して以降、長年にわたり調達・購買部門で働いでいましたが、その後に別部門をいくつか経験しております。

この話を聞いたときは、私はある部門の部門長をしていて、その人は私の上司の副社長のオランダ人でした。この人は、多くの日本人と交流もあり、日本文化、社会、経済などにも関心が高く、また日本各地を私的な旅行でめぐったりしている人でした。日本の経済構造の優れた面や課題事項を深く理解しており、判断が素早く直観力が優れた人でした。何かの話題のなかで、その方は次のような自説を述べたのでした。

「日本はHOWの文化である。そのため、応用技術を得意として、さまざまな分野の製造業を発展させ躍進している。一方、ヨーロッパは、WHYの文化で、基礎研究で何世紀にも渡り多くの成果を出し続けてきた。そのため、ノーベル賞受賞者のほとんどがヨーロッパ人(ならびに、ヨーロッパから移民した人たちが多いアメリカ人)である。日本はHOWの文化であるため、ノーベル賞の受賞者は極めて少ない。」

その言葉は、私には「日本の製造業の発展は、ヨーロッパ人がもたらした基礎研究の成果を基盤としている。」という意味に聞こえました。(そのオランダ人は、そのような直接的な表現はしませんでしたが。)2000年以降での日本人のノーベル賞受賞輩出という事実に触れて、この人は、現在どのような日本文化論をもっているのか興味があるところです。

日本の製造業は、戦後の高度成長期後、自動車、エレクトロニクス、産業機械、素材などさまざまな分野で発展を遂げてきました。このような分野の様々な部門の人たちの知がもたらした成果だと思います。調達・購買部門の方々のこの発展をもたらした力の一部となっていたことは間違いありません。とくにモノづくりの面では、QCサークル、5S,カイゼン、カンバンなど様々な仕組みを生み出してきたのです。調達・購買でお世話になっている取引先メーカーは、まさにそのような文化を引き継いでいる会社なのです。先ほどのオランダ人の言葉を借りれば、HOWの文化の結実とも言えます。

しかし、それと同時に戦後の復興のなかで、学術研究分野では、多くの研究者によりさまざまな分野で基礎研究が続けられ、成果をもたらしてきたのでした。その当時の成果が、ここ近年のノーベル賞受賞につながっているのです。再び先ほどのオランダ人の言葉を借りれば、日本人もWHYの文化を育ててきたのです。いや、日本にもHOWの文化だけではなく、WHYの文化もあったのです。

さて、日本人のノーベル賞受賞とともに、マスコミで報道されていたのは、日本の科学研究分野での将来性への危惧です。大学など諸研究機関で予算が少なく、十分に質の高い研究ができずにおり、将来は、ノーベル賞を受賞する日本人はいなくなってしまうのではないかと言う内容でした。日本のWHY文化の危機です。

さらに、ノーベル賞とは直接関係ありませんが、日本の製造業にも危惧すべき事態が起きています。最近では、免振装置の仕様の偽り、金属などの素材メーカーや自動車メーカーの品質データ偽造などがあります。また、工場火災などの事故も度々起きています。日本の製造業でのHOW文化も危機に面しているのでしょうか。

ノーベル賞受賞の報道特集などで、もうひとつ強調されていたのは、ある国の科学研究での台頭です。また、この国は、製造業でも世界への影響を強めています。

この国の自然科学の基礎研究はどのような特徴があるのでしょうか。そして、将来この国はノーベル賞受賞者を輩出するのでしょうか。

また、調達・購買取引先である製造業での日本のHOW文化の今後、ならびに上記のある国の製造業は日本企業の調達・購買の取引先として、国際的にも今後台頭してくるのでしょうか。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

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