第一回:私の開発購買との出会いと別れそして再会

現場で培った開発購買手法

私は様々な種類の調達・購買業務を合計26年間経験しました。その間、二つの業界で多岐にわたる品目を取り扱いました。これらの様々な種類の調達・購買業務で、最も印象に残り、かつ多くのものを得たのは、開発購買です。これから10回程の連載で、私の現場経験と考察をもとにした開発購買について、述べてゆきたいと思います。

それは、学術・研究論文ではありません。核にあるのは、現場での苦労、失敗、成果、そしてそれから得た学びです。さらに、その後の異なる業務(経営企画、サービス)経験や中小企業診断士の資格取得により知識や交流が拡充しました。その結果、調達・購買業務、とくに開発購買を考える視点が多様化したのです。私は、開発購買の実務経験と様々な視点からの「開発購買とは何か」という課題に対応するために、体系化に取り組んできました。この連載記事でその体系を、皆さんにお話し致します。

開発購買との出会い

私の開発購買との出会いの始まりは、あるグローバルな総合電機メーカーの国際調達・購買(IPO)で活動している時でした。(そのIPOは規模が大きく、バイヤー部門だけでなく内部に納期管理部門、品質部門、物流部門それに経理部門もありました。ちなみに、その頃は開発購買という組織はこのIPOにはありませんでした。)その時は、私はIPO内のバイヤー部門の一つの課の責任者でした。

ある日、日本の調達・購買部門を統括するマネジメントから、系列会社での新規事業の立ち上げでの調達・購買を担当するように、との命令を受けたのでした。新規事業部の製品開発の初期から関与して、貢献するようにとの指示でした。その系列会社へ出向となったのです。

新しい業務へのチャレンジというワクワク感があった一方、片道キップになるかもしれないという覚悟もしなければなりませんでした。また、考え方が違う人たちや、異なる企業文化との出会いが楽しみでした。しかし、その会社の人たちからみれば私はよそ者です。その私が新しい職場の人たちとうまくやっていけるのかという不安もありました。

正式な出向辞令が出され、新しい場所での勤務が始まりました。社内の開発・設計部門、調達・購買部門等の人たち、国内外の拠点の開発・設計部門、調達・購買部門の人たち、そしてサプライヤーの人たちと議論し、共闘をする奮闘の日々が始まったのです。

新たに取り入れるべき知識、スキルなどの必要性に直面して、自己研鑽を重ねる日々でもありました。その会社の新規事業部門の事業部長の指揮のもと、さまざまな部門の人たちの貢献により、新規事業立ち上げは順調に進み、初回開発製品の量産も計画通り開始されました。この新規事業立ち上げ後も、市場に次々に現れる新技術に対応する新製品開発は速いスピードでやむことなく続きました。

私の開発購買の仕事も多忙を極めていましたが、今から思えば新鮮で楽しい日々でもありました。この任務が4年間続き、その後、元の職場であるIPOに戻されました。

その頃は全社的に、調達・購買を開発購買と量産購買に分ける方針が進み、このIPOでも開発購買の機能をあらたにつくることになり、私はあるカテゴリーの部品グループの責任者をすることに加えて、ある製品事業部の開発購買のリーダーも兼任することになりました。IPO内のバイヤー関連の責任者は皆この兼任をすることになったのです。

IPOなので、製品開発・設計部門は海外にあり、また兼任という組織構造からも、開発購買の運営は多くの困難がありました。系列会社で4年間開発購買の経験があったことが、この困難への対応の助けとなったと思います。

私の開発購買経験の発展

その後、経営企画室へ異動となり、経営全般に関与することになりました。中小企業診断士の資格を取得したのもこの時期でした。その後サービス部門の責任者という新しい任務に就きました。もう調達・購買業務をすることはないだろうと考えていたのですが、ある縁があり東証一部上場の自動車部品メーカーに転職することになり、エレクトロニクス系事業部門内の調達・購買の責任者になったのでした。

この事業部は規模も大きくなかったこともあり、独立した開発購買というグループは、持てませんでしたが、事業部内に開発・設計グループや営業グループなどがある、独立事業会社のような組織でした。そのため、実質的に開発購買機能も果たすことになりました。まさに開発購買との再会でした。そして、これが開発購買を、多様な視点から見直す機会にもなったのです。

経営企画、サービス部門での経験や中小企業診断士資格取得で拡充された知識を基に多様な視点から開発購買を考え、実行できることになったのです。前の総合電機メーカーの系列会社での開発購買での経験とはまた別の新鮮な経験をすることができました。この新鮮さは、異なる業界という要因もありますが、様々な業務の経験と資格取得による視点の多様化が大きな要因になったことは確かです。

数年前に企業勤務から退き、現在は経営・購買のコンサルタントとして、コンサルティングや研究会などのさまざまな活動を通じて、開発購買をはじめとした調達・購買についての考察を継続しております。開発購買との再会は、別れになることはなく、関心は続いているのです。

次回以降は、開発購買の本論になります。開発購買の定義・目的・意義を明らかにします。そして、基本的は事項を述べた後、具体的な実行方法や活動の実効性を高めるための戦略についても述べてゆきます。

→2018年7月24日(火)に「開発購買セミナー」を実施しますのでご興味があればご覧ください。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

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