連載2回目「購買はモノを買ってXXを売る」

「購買はモノを買ってヒトを売る」の、もう一つの話題です。

前回は、調達・購買部門の人材を他部門へ売り込む話でした。これは、調達・購買部門長などのそれなりの職位にある人の売込活動で、誰もができることではありません。

今回の話は、あなたご自身の売込についてです。あなたご自身を、部門内の上司・仲間・部下ならびに他の部門(会社)に印象付けることです。さらに言えば、あなたご自身を、他の組織(会社)から是非欲しいと思ってもらうことです。

言うのは簡単ですが、実行して結果を出すのは、容易ではありません。今回は、前回登場した調達・購買部長のお話ではありません。私の考察に基づいているものです。

ものやサービスの販売に成功するには、その商品価値が高くなければならないのは、必須のことですが、これだけでは十分ではありません。その商品をいかに知ってもらうか、いかに売るか等の活動が必要です。

調達・購買パーソンを商品に例えると、その価値とはなんでしょうか。すぐに思いつくのは、その人のもっている知識・スキルですね。また、学歴を含めた経歴、業界、職位、資格なども価値だと言えます。調達・購買パーソンの価値には、いくつかのものがありますが、ここでは、知識・スキルについて述べます。

この知識・スキルは3つに分類できます。
●一つ目は、調達・購買業務を遂行するためにものです。
●二つ目は、人間関係の構築力です。
●三つ目は、課題解決・改革力です。

上位職になるにしたがって、二つ目そして三つ目のスキル・知識がより重要になってきます。また、二つ目と三つ目は、調達・購買だけでなくすべての職種で必要とされるもので、汎用性が高いものと言えます。

ここでは、調達・購買パーソンの商品価値について述べているので、一つ目の調達・購買業務を遂行する知識・スキルに焦点を当てて考えたいと思います。調達・購買パーソンに必要とされる知識・スキルの一部を挙げると、以下の通りです。

(1)一般的なもの :取り扱い製品(仕様・製造方法など)、取引先業界(現状・動向など)等
(2) コスト・品質・納期関連 :コスト低減手法、品質管理・保証、製造・生産管理、等
(3) 取引先関係強化・開拓関連 :経営(ビジョン、戦略、中期経営計画など)、財務、製品開発プロセス、等
(4) リスクマネジメント : BCM(事業継続マネジメント)、BCP(事業継続計画) 、等
(5) コンプライアンス:下請法などの法規範ならびに社内規範、倫理規範

また、海外取引先からの調達・購買を実施している場合は、上記に加えて、輸入・輸出業務、外国為替及び外国貿易法などの知識が必要です。

上記に述べたものは全体の一部ですが、調達・購買業務には非常に広い分野での知識が必要です。しかも、それぞれが長年に渡り研究者や実務家などにより、深化されています。これらの知識を習得するためのポイントは次の通りです。

①全般を広く習得:
*深くなくても良いのでまず全般を知ることです。例えば、品質や製造・生産管理は多くの専門書がありますので深く理解しようとすると際限がありません。この段階では、基本が分かればよいと割り切って良いのです。いや割り切るべきだと思います。

*所属している調達・購買部門で教育計画を組んで、これらの講義がある場合は積極的に受講しましょう。ない場合は、自分で習得計画を作成して、外部セミナーを受講し、書籍を読むなどの自己研鑽をすることです。社内の専門家に依頼して、講義をしてもらうとか、上司や先輩の指導のもとOJTで学ぶことも欠かせません。

②分野を特定して知識を深める:
分野を特定する視点には、まず調達・購買として特に重要と考えられるものがあります。CQD関連では、コスト低減手法です。取引先評価・開拓の関連では、経営戦略・中期経営計画などがあります。もう一つは、自己の将来のキャリアのために、強化しておきたい分野です。

例えば、生産指向がある場合は、製造・生産管理などが特定する分野になります。特定分野のスキル・知識を深めるには、専門書を読むことに加えて、直接体験が効果的です。製造・生産管理などでは、自社の製造工程を見学して、その部門の専門家に質問して知識を深めたり、取引先の生産現場を視察する場合も同様な対応をすると良いでしょう。

③調達・購買以外の業務視点から調達・購買としてのスキル・知識を拡充する:
例えば、開発・設計の経験があれば、新製品開発段階での調達・購買業務の付加価値向上のために何をすれば良いかを考察することができます。製品開発プロセスの段階ごとで深く考えることができるので、開発・設計を経験したことのない調達・購買部門の人には思いつかないアイディアも出てくるでしょう。

④調達・購買を取り囲む変化に対応する:
経済や技術等の進展や変化がもたらす業務内容・スキルなどへの影響を考察し、現在のスキル・知識を発展させたり、新しいスキル・知識を習得したりすることも必要です。かなりの水準のスキル・知識を習得して、上司等部門内の人たちや他の部門の人たちから評価されるようになった後も、このような進展・変化に対応することが必要です。例えば、IoTやAIの発展は、自分が現在持っているスキル・知識のいくつかを陳腐化してしまうことも考えられます。

① から④のすべてに言えることは、学ぶ・考えるという姿勢・意気込みそして気付きです。
スキル・知識を拡充するヒントや機会は、様々な所にあります。

今回は、皆さんご自身という商品の価値を高めることについて述べました。次回は、「その商品をいかに知ってもらうか、いかに売るか等」についてです。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

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