AIが調達を激変させるというウソが蔓延している(坂口孝則)

私は、作家の故・開高健さんが好きで、ほぼ全冊を読んでいます。初期作品から、文体の影響も受けました。開高健さんは作家として有名になったあと、釣りなどの遊びにハマるほか、東京の秘境をめぐったり、それを紹介したりします。また、ベトナム戦争で従軍し多くのルポを書き上げます。

開高健さんのベトナム戦争のルポについては読んでいただくとして、私が興味深かったのは、開高さんが「ほんとに行ってみなければわからない」としみじみ語っていた内容です。それは何か。ベトナム戦争では、昼ごろになったら、兵士が昼寝をするというんですね。しかも、前線で。開高さんは、はじめてその光景を見た際には、「寝てるときに相手が攻めてきたら、えらいことだ」と騒いだそうです。しかし、「いや、相手も寝ているから大丈夫」といわれたのだとか。

そして、開高さんは、そのうちに慣れてしまって、自分も寝るようになってしまったようです。戦争では、もちろん悲惨な状況ではあるし、凄惨な場面に何度もでくわします。しかし、昼寝はしている。戦火の中心では、街の子どもたちが笑いながら遊んでいるし、口笛を吹いている。メディアでは報道されないこれらを指して、開高さんは「ほんとに行ってみなければわからない」といったのでした。

話は変わるようで、変わりません。

これまで、多くの機会をいただき、調達・購買業務に従業する方々と接してきました。そのとき、「新聞報道ではこうなっていましたけれど、実際はどうなんですか」と訊くようにしています。華々しい成果ばかりが喧伝されます。しかし、話を聞くと、多くの場合は「まったくうまくいっていない」ケースがほとんどです。システムを導入した、といっているものの、いまでもエクセルで計算したほうが速い(早い)とか、いまだに電話をかけて確認しています、とか。

「実際のことは、訊いてみないとわからない」と私はつねに感じます。現場主義というよりも、現実主義、というべきでしょうか。わかってもらえるひとは多くないかもしれませんが、述べておきますと、このところリアリズムの人気がまったくありません。夢物語や突飛した話が大流行です。たとえば「AIが調達業務を代替する」とか「RPA(ロボットプロセスオートメーション)がすべてを変える」みたいな夢物語です。

私たちは夢想家ではありません。リアリズム、現実主義を前提に業務を着実に改善していきましょう。もちろんAIとRPAは使えます。しかし、現実的でクールな態度が重要です。

私たちは、開高健さんと同じく、現場で実際に置きていることを大事にしていきたいと考えています。「一般的にはこういわれている。しかし、現場で起きていることはこうだ。だから、実務家としては、こういった施策をうっていこう」と。

そんなことを考えたのでした。

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