こんなに苦しい調達業務を私たちがやる意味(坂口孝則)
私は九州の佐賀県出身です。だから、というわけではありませんが、ラーメンはどうしても、とんこつラーメンを好んで食べます。チェーン店で一風堂があり、よく利用しています。
ところで、彼らが中国に進出する際に、すべて現地調達をしようと試みた経緯はさほど知られていません。よくよく知ると、まさに製造業のそれ以上のご苦労をなさっています。
たとえば、こんな感じです。
・水道水がまったく使えない→浄水装置を自作してなんとか軟水に変換した
・製麺しようとすると、小麦の品質があまりに悪い→業者の変更をおこなう
・かん水が入手できない→業者に依頼し、塩を添加し、かん水ではないと当局に認めさせる
・肉を調達すると素性不明のものが届く→業者変更ならびに、一頭ごとの調達とする
・塩がよくわからないもので納入される→原材料に遡って調達
と、ラーメンにかける情熱がなければ、ぜったいに現地調達不可能なものばかりです。しかも、この調達が安定するまでに2年以上もかかっています。
さらに、現地の法人は儲かっているでしょうか。自動車メーカーの現地法人などを例外として、ほとんど儲かっていません。赤字続きが常識です。
また、私は海外への出張が多いので、聞いてみると、驚きます。メーカーなどでは、現地法人が、日本からの出張社のコストを計上していません。ご存知の通り、現地法人は、日本の本社から出張者が来た場合、彼らが現地法人の仕事をした場合は、対価を計上せねばなりません。計上しないでいいのは、本社の人間が、現地で本社の仕事をしている場合のみです。
しかし、実際は、本社の人間は、現地法人の支援をしているはずです。私は聞いてみました。「本社の人間たちのコストを計上すると、どうなりますか」「赤字になります」。これが現状です。だから、日本からの出張者を、接待している場合ではないのです。
現地調達は苦しい。しかし、現地調達をなんとかやり遂げても、赤字が続く。これが日本企業の実態です。それでも、10年くらいは赤字であっても我慢するのが日本企業の慣例ですから、なかなか表面化しません。
このところ、面白い傾向を見つけました。たとえば、海外に進出するとしますよね。そして撤退すると、進出の事実までもホームページから消されてしまうのです(笑)。現地調達できるのはステップ1、そしてステップ2は、現地のなかでも安価な調達を目指す。そして、ステップ3は企業業績に貢献することです。
いま私が考えていることを書けば、そのステップ3で日本企業の調達・購買部門が貢献できるのは、「オネストサプライチェーン」の実現ではないでしょうか。「オネスト」とは正直であること。そして、製造プロセスにゴマカシがないことです。誠実さ。そして、それが現地でのブランディングにつながっていくはずです。
サプライヤの製造プロセスもふくめて、しっかりとした、QCDの確立を目指すこと。そして、「安かろう、悪かろう」ではなく、「日本流の、品質の良さを徹底すること」。これが、全社ブランディングに寄与できる手法であると私は思います。それが、「オネストサプライチェーン」です。
世の中に奇跡を求めるのではなく、地道に、サプライヤからの調達品を改善させること。これが、日本人に残された最後の優位性であるように思えるのです。