浦島太郎と調達業務の明日(坂口孝則)
以前、昔話「浦島太郎」の解釈を聞いて驚きました。浦島太郎が亀を助けて、竜宮城に行って、そして玉手箱を空けたら加齢し白髪になってしまったあれです。みなさんとおなじく、私も、あの話の奇妙さは意味がわからないまま記憶しています。
しかし、この「浦島太郎」は神話学的には、「たいしたことをやらずに、たまたま手にしてしまった幸せは、人間を努力から遠ざける」と解釈すべきもののようです。驚愕しました。昔話は、なぜだか大衆の心を打ったものだけが残ります。浦島太郎は、子どもたちから亀を守りました。たしかに、勇気は必要でも、それ自体はたいしたことがない。
ただ、その後、浦島太郎は、竜宮城に連れて行ってもらい、酒池肉林を享受します。行為にたいする報酬があまりに過剰です。そして、地上に戻って玉手箱を空けると、時代に取り残された自分がいる。あえて曲解し、日本の高度成長期にあてはめるとどうでしょうか。50年前、日本が異常な成長を遂げているとき、たいした努力がなくても、売上はあがりました。利益も伸びました。しかし、多くの企業人は、それを自分の才覚ゆえと勘違いしてしまいました。
そして、90年代から、00年代を経て、10年代に、新興国や中国という玉手箱を空けると、この数十年、日本人はなんら新たなチャレンジをしていない浦島太郎だと理解するにいたりました。この浦島太郎化に、気づいている企業はまだましです。多くの企業では、会議に参加すると、とにかく新たなものを開始するのに相当な時間がかかったり、あるいは、細部にこだわり反対されたりします。
調達・購買のプロとは何か。それはきっと「できない理由をすべて知っている集団のこと」と皮肉りたくなるほどです。現状をドラスティックに変えるためには、現状の自己否定からはじめなければなりません。それでも過去と現状に拘泥するのは、異常なほどです。
私たちは、一部のサービスを停止し、大きく変化させる運びとなりました。これまで、最新の調達・購買事情を説明するジャーナルを発行していました。しかし、一方的に発信するのは、もはや時代にあわないと判断しました。かつては、ネット時代に、情報を公開するのが唯一解だと考えていたものの、これからは、より現場で対話を重ねることに力を置いてきます。
対面して討議を重ねる。それは、一見すると、時代に逆行する試みのように感じるかもしれません。しかし、何かを変えなければならない時代。私たちだけが発信するのではなく、多くの同士たちとのリアルな接触によって、きっとみなさんの自己変革につながると強く信じています。