大阪のおばちゃんと調達戦略(坂口孝則)
私は、九州にも、関西にも、関東にも住んだことがあります。よく関西人は面白いひとが多いといわれます。しかし、私が仕事で触れ合う感覚でいえば、真面目なひとが大半です。大学生時代は、大阪に住んでいました。そのとき「大阪のおばちゃんは、よく話すし、厚かましいひとが多い」といわれます。しかし、正直、そう思いませんでした。いうほど、地域差はないのではないでしょうか。
なぜ、「大阪のおばちゃん」伝説が生まれたのでしょうか。それはテレビ番組がきっかけです。大阪ローカルのテレビ局は、芸能人を大量に使うことができず、素人の活用が必須でした。そこで、某局が、夕飯の買い物時間帯に、「今晩の献立はなんですか」とスーパーから実況をはじめたのです。でも考えてみてください。テレビ局が、なんの事前調査もなく実況するはずはありません。
実際には、中継前にかなりのリサーチを重ねました。簡単にいえば、中継前に、多くの主婦に声をかけ、テレビの中継に耐えうるような、「よく話すし、キャラが立っている」素人を探したのです。みなさん、生放送で自分が何百万人に晒される経験がありますか。私は毎週やっています。しかし、はじめての経験で、物怖じせずに語れるなんて、めったにいない人材ですよ。そもそも、普通の主婦ではなく、特殊な主婦なんです。
しかし、このスーパーの実況番組は、大きな成果を得ました。つまり、大阪のおばちゃんが、「よく話すし、厚かましいひとが多い」という虚構のマーケティングに成功したのです。でも、考えれば、全国どの都道府県でも、騒がしいひとはいるし、物静かなひともいますよね。
わざと話を発展させます。
よく、「この企業の調達・購買部員は優秀だ」とか「この企業の調達・購買部員はたいしたことがない」といいます。でも、ほんとうでしょうか。おなじ人間ではないですか。もちろん超一流企業と、他は違うかもしれないけれど、素直に信じることはできません。
そこで、あの有名なポーター教授に登場いただきます。競争戦略分析で泣く子も黙るあのひとです。また、5Forces分析はあまりに有名ですね。ポーター教授は、企業がいかに稼いでいるかを分析しています。えっと驚きますよね。だって、その企業の戦略とか、社員が優秀だから稼いでいるんじゃないのか、と。だって、ポーターは戦略論の専門家ですから、企業の優秀さで稼いでいる100%を説明できるといってもおかしくない。しかし、たまたま市場が伸びているから稼いでいるかもしれませんよね。
ポーター教授は、恐るべき数字を出しています。企業が稼いでいる説明比率のうち、環境がよかったから稼げている比率が19%もあるといいます。それで、企業の戦略や社員が優秀だから稼げているという説明比率は、たったの32%だといいます。残りの49%はなんだと思いますか。説明できない、と述べています。だから、企業がなんとかできるのは、たったの32%ていどで、あとは「どの産業を選んでいるか」そして「運だ」っていっているんです。
能力の違いじゃないんです。地域や産業にかかわらず、誰だってほとんど能力は変わらない。それは大阪のおばちゃんの例から明らかではないですか。「何をやるか」が大事なんです。それとやや精神的なんですが「運」を信じることが大事なんです。
ここから、さまざまな解釈ができるでしょう。しかし、私はこの時点では、あえて語りません。ただ、強調させてください。そもそも、自分たちの事業として何を選択しているか。ここで大半が決まるのですから、ここを意識しない調達戦略はむなしい。もっといえば、戦略そのものがむなしい、ということになります。
今回は、あえて、ここでみなさんにボールを投げておきます。私たちが戦略を考えるにあたって、重要な心がけはなんだと思いますか。