ハイテク調達と置いていかれる日本(坂口孝則)

数年前、ある方から誘われてイスラエルに行ってきました。ハイテク産業が進み、第二のシリコンバレーといわれています。AIやサイバーセキュリティ、そしてハイテク部材が興隆しています。そういえばイスラエルの半導体企業をインテルが買収しましたよね。世界の先端がイスラエルにあるというわけです。

しかし、正直に申せば、行く前はさほど期待していませんでした。900万人くらいの国ですから、そんなに凄くはないだろうと。

ただ行ったら衝撃を受けました。タケノコのようにハイテクベンチャー企業が誕生しています。しかも、軍事技術を国ぐるみで民間転用しています。なんとか海外に出ていかないと食えないからです。

ある方は、大学卒業後、徴兵制で軍の機密情報局に配属されたといいます。「半年以内にイランのサーバーに侵入しろ」という課題だったそうです(笑)。しかし、そのために軍の技術を習得し、次々と難題をクリア。徴兵制が終わったときは、「なんて民間のビジネスは楽勝なんだ」と思ったそうです。

で、ここからが本題です。

私が、日本企業がイスラエルから調達したい際には、なにを気をつけるべきかと訊いたところ「難しい」といわれました。つまり売ってくれない、というのです。なぜか。日本人は大挙してやってきて、ああだこうだいうけれど、けっきょくは決めてくれない、といいます。それならスピードが速い他国に売ったほうがいいと。

これからはスピードが遅いとお金を受け取ってくれないのです。もはや、買い手と売り手は逆転した立場にいます。サプライヤとは一緒に開発をする機会も増えます。そんなとき、遅かったらやってられないと。

日本企業が出資したいといったらどうですか、とも訊いてみました。おなじく、答えは「世界じゅうで、これだけ無数の企業があります。そのなかで日本企業を選ぶ理由はどれだけあるでしょうか」と。ただ、自動車産業のみは、まだ日本に魅力があるといいます。あのアッセンブリ技術は一朝一夕で身につきませんからね。

逆に「日本企業と組むと、どんないいことがあるのか教えてほしい」とリクエストされました。これからのバイヤーには、中長期的なビジョンを示す必要があるというわけです。モノを買ってくる、そんな単純な仕事から脱皮し、まさに会社の顔として夢を語ることが求められます。

AIではなく、生身の人間として、ビジョンを示し、付加価値を示し、さらに人間的な魅力で相手を巻き込む。

そんなことは遠い国の話だ、と思うでしょうか。日本でもどこでもサプライヤとバイヤーの立場が等しくなる流れはおなじです。そんなとき私たちは「自らの言葉」をもっているでしょうか。

私は10年以上前に「赤えんぴつバイヤー」「黒えんぴつバイヤー」という言葉を唱えました。赤えんぴつバイヤーは、他人の資料に赤えんぴつで悪口を書くのは得意だけど、白紙を差し出されたら自分の意見をいえない。だから、黒えんぴつバイヤーになろう、と。

10年以上のときを経て、イスラエル出張は、ふたたび私の心に何かを残しました。

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