島耕作とユニバーサルスタジオと調達力(坂口孝則)

日本ではさほど報じられていませんが、中国の北京でユニバーサルスタジオが開園しました。入場チケットは99ドルでしたが、30分で売り切れ、さらに300ドル以上のリゾートホテルも完売したようです。ハリーポッターのアトラクションが人気で、あらためて中国の購買力を見せつけられました。

ところで、同時に中国はIT企業への統制を強めています。アリババの例は有名です。また、政府に批判的な映画スターへ報酬を制限し活動を制限するように命令しました。さらに香港の選挙では親中議員が大半を占めるようになったのは、やや衝撃的です。

つまり、中国の購買力、そして政治のリスク。この二側面が日本企業の選択を難しくしています。調達側からは、中国から脱却して民主主義国家内でのサプライチェーンを構築せよ、という議論があります。しかし、実際には販売側からすれば、不買運動の可能性があり、なかなか脱中国が難しいのが現状です。

なお漫画『島耕作』シリーズでは中国との関係をどうすればいいか悩むシーンがあります。建前だけを考えれば中国なしでのサプライチェーンを考えればいい。でも、実利的には無視できない。この矛盾のなかで日本企業は苦しんでいるように思えます。

話が変わるようですが、某哲学者から勧められて私は『島耕作』シリーズ全作を読みました。日本企業的なるもののすべてを象徴しているからです。島耕作は、正義感、土下座もいとわない営業力、行動力、の三つに支えられています。賛否両論あるでしょうが、特殊なスキルではなく、ビジネスパーソンの根源的な姿勢を示したために、多くの読者が支えたのでしょう。

話を戻します。その正義感、土下座力、行動力から考えるに私たち調達・購買部門は何をすべきでしょうか。

まず正義感からは、中国を含む他国で人権の蹂躙がないか、徹底的な調査を進めるべきだと私は思います。これは事実ですから、事実を調べて悪いはずはない。そして、土下座まではいかないにしても、セカンドソースとして多様な調達網を模索する必要があるでしょう。お願いしてなんとか代案を探していく。これから調達が受け身であっていいはずはありません。積極的な複数購買の可能性について探りましょう。

行動力について。

私はぜひ各調達部門に、事業企画力をお勧めしたいと思います。アマゾンは全世界のアマゾンを統合するためにサーバー業務を刷新しました。これがのちにAWSとなる事業のはじまりでした。そして、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスはワシントン・ポストを買収します。そして自社の新聞社向けのコンテンツシステムを開発し、それをローカルな新聞社に販売しました。

つまり自社で成功した例をシステム化して他社に売却しているのです。ということは、世界の中で、これだけサプライヤマネジメントやサプライヤのコスト管理に優れた日本企業の調達部門が、その仕組を外販できないはずはありません。私は、これから調達部門はコストセンターではなくプロフィットセンターになるべきだと思っています。

ちょっと話が飛躍したかもしれません。でも、私は危機の時代を好機と考え、「困難な時代をむしろ利用してやる」くらいの覚悟が必要だと思うのです。

日本企業の調達業務は高度なのですから。

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