士農工商イヌ携帯

「『士農工商イヌ携帯』ですから」という言葉を聞いて驚いたことがあります。

 私が以前勤めていた会社は携帯電話も作っていました。毎年毎年下がりつづける販売単価。自転車操業とはまさにこのことか、と思わせるくらい、作っては売って作っては売って。

 終わりのないレースを続けるかと思うと、市場からのクレーム、そして飽きられ捨てられ、店頭販売は「0円」となってました。某キャリアの、携帯電話メーカー担当の購買マンはヤクザらしく、常に値引きしか要求してこない。しかも、その態度に面と向かって啖呵を切るだけの上位関係にもない携帯電話メーカーたち。

 いや、むしろ携帯電話メーカーの営業マンはまだ前線に立っているだけマシだったかもしれない。その営業マンの取ってきた単価でやりとりさせられる工場の立場を考えればもっとむなしい。さらに、その工場の目標に向かって努力させられる末端のバイヤーはもっともっとむなしい。

 そこには理論などなく、自社の利益確保だけのためにひたすら目標コストをサプライヤーに押し付けざるを得ない構造がありました。そして、いつしかバイヤーの立場を劣化し、あるいは自虐的に、こう言ってしまうのです。

 「士農工商、でいくと、それ以下。イヌ以下ですね。士農工商、イヌ、携帯みたいなもんですよ」

 同じ会社内で聞こえてくるこのブラックジョークがどれだけ哀しく響いてきたかを忘れることはありません。

 このような状況に対する打開案は簡単ではない。と思います。仕事の閉塞感を打ち破る手法は、ときとして経営者しか不可能なものが声高に叫ばれてきました。そのビジネスを止めてしまえ、とか大幅な組織変更など。

 しかし、ミクロなレベルで考えた場合、社長ではない私たちに応用するとすると、会社を辞めるか諦めるしかなくなってしまいます。業界や会社の勢いを、個人のみの功績で変化させることは難しい場合が多いのは事実です。

 自分一人ではなんともしがたい状況(業界不況とか会社低迷)などの場合のバイヤーの立ち振る舞い方について、ひとごとかのように言ってしまうと、次のようなことになると思います。

 「苦境という成長の最大のチャンスを楽しもう

 あるとき、会社が何をやってもダメなときがありました。購入品を安くしても安くしても、それ以上に下がっていく自社製品の単価。社員のモチベーションも下がり、何も打つ手がなくなっていました。

 一種の無気力感が漂っていたそのとき。 なんでもやることができる雰囲気も漂っていたんです。日本的なしがらみ商関係を打ち切る提案も次々に通っていきました。しがらみを気にするのはまだ余裕があるからだったからです。余裕のない会社にあっては、品質を保てる限りでは、どこから購入することも許されてしまいました(これはこれで危険なのですが)。

 私は、コスト低減の観点から、輸入プランを書き上げ、海外に出張に出かけました。海外への出張も、それで築いた人脈も、会社の低迷がなければあり得ないことでした。逆境が最大のチャンスに変わこういう楽しみ方があるのです。

 これは誰かへの慰めのコトバでは決してなく、むしろ業績好調の企業では不可能なことができるという点で、実現可能なことです。そして、絶望的な状況から、いかにして立ち振る舞ったか、という内容はノウハウになります。

 人には物語が必要だ、と強く思います。

 逆境とその苦しみ。それに加えて、その逆境から挽回する経験と能力が必要だとも思います。苦しみ、という物語があったからソニーもピカピカのブランドとして成立しているのです。そして今やっていることが宝のありかだと分かっただけで仕事への考え方は一変するはずです。 

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