お願いがあります(坂口孝則)

調達・購買部門の老害について、もう時効だと思いますのでお話します。

以前、某社調達部門の部長からご依頼をいただき、風土改革のようなプロジェクトに協力したことがあります。協力といっても、部長の異動により、途中で終わってしまいました。この部長はきっとこの文章を読んでいると思います。部長は調達部門を変えたいと強く願っていましたが、他部門から移ってきたひとでした。すると、調達部門の長老社員が反発を強めていました。

部長は部門改革のプロジェクトをはじめました。口調は丁寧に、そして情熱的に部員に説明していました。しかし、プロジェクトがはじまると意地悪なほど部員が協力的ではないのです。

私はこういう会話を聞きました。老害社員の会話です。「課長から、『部長がなんか始めるから人を出せっていうからさ、行ってきてくれよ』って指示があったよ。このクソ忙しい時期に困るよ」「だいたいさ、なんか方針を出したいなら、自分だけで考えてトップダウンでやったほうが早いんじゃね」「だいたい、部長ってそんなにわかってないだろ? 本気でやる気あるのかね?」「それにさ、部門のビジョンって明確じゃないだろ。それで下が動けっていってもバカじゃないの、って話でさ」「まあ、でも、なにもやらないわけにはいかないから、会議に出つつ適当にやっていきますか」

この会話を読んで、この社員に共感したひともいるでしょう。しかし、私はコンサルタントではなく、調達部員の時代から、この手の人が苦手です。

私は、すべてを上のせいにするひとが信じられません。人間は自ら考えて動くべきで、トップダウンがないなら、それは自由に動ける分、歓迎すべきことだとすら思います。トップにビジョンが明確ではない、といいますが、そうボヤくひとのビジョンが明確だったためしがありません。

それに、何かを変えようとする部長を冷笑する態度がどうしても私は許せないのです。

しかし、部長は私よりもっと大人で、このような反応は百も承知でした。このような部員に怒るどころか、なんと言ったと思いますか?

「調達部員がこのように夢をもっていないのは、管理職に問題がある。私がもっとも責任が重い」と。私はこの発言に驚きました。というのも、前述の通り、この部長は、他部門から移ってきたひとだったのです。だからこの部長に責任がないのは明らかです。しかし、自分に責任がある、と。

この「すべての責任を自分が持つ」というのは、かなり難しいことです。おそらく、甘えん坊の社員には1000年くらいできません。私は、他人の責任にせず、自分の責任として仕事をとらえるひとと添い遂げたいと思います。この部長は、残念ながら、道半ばで離脱しましたが、重い一言がまだ私のなかにリフレインしています。

権利を叫ぶことが常態化し、ほとんどなんら給料に見合う成果を上げられないのに、多くの人たちは、自らが悲劇のヒロインかのように思い込んでいます。会社が悪い、上司が悪い、部門が悪いと考えるだけ。だから私はあえて、現代の管理職に同情してしまうのです。

そして、お願いがあります。調達部員のみなさんへ。

いったん、会社と部門のせいではなく、一度、自分ができることを考えてみませんか? 他人に皮肉を言ったり、会社にばかり期待したりする前に、何ができるか真剣にやってみませんか。

私は、どうも、あの部長が、調達部門を去る直前に涙を流していたような気がしてならないんですよ。

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