サプライヤが○○○だと倒産する理由(坂口孝則)
私は以前、自動車メーカーで勤めていました。その際、先輩から「倒産する取引先は、なぜ前株なんだろうね」というボヤキを聞きました。そこから幾星霜。私は会社を名付ける際に、もちろん後株にしました。未来調達研究所株式会社です。ところで、「株式会社」の前後で、実際に、どちらが倒産件数が多いかご存知ですか? 東京商工リサーチによると、前(いわゆる前株)が倒産の74%を占めます!
おおすげえ、と驚いた私ですが、なんてことはありません。もともと前株の会社が多いだけです。事業領域や営業力、商品力が企業の栄枯を決めると思っています。ただ、それでも「倒産する会社名の奇妙な統計情報」が面白く、ご紹介しました。
しかしそれでもなお面白いと思うのは、その絶対数を補正しても、もっとも倒産する企業は、頭文字「タ」です。このメールマガジンの読者に、「タ」はじまりの会社に勤める方はたくさんいらっしゃるでしょうから、あらかじめお詫びします。
ところで、冊子「The調達2018」を発表してから、相当な方にダウンロードいただきました。現時点では無料にしています。
昨年版は、通算で1万ダウンロードを超えたのですが、本年版は一日で1200ダウンロードを超えたようで、かなりいいペースです。
ところで、この冊子で正木さんらが中小企業の危機について述べています。他人事ではありません。みなさんがつきあっているサプライヤの跡継ぎがいないのです。調査にもよりますが、中小企業の3~7割は、跡継ぎがいません。確実に、廃業に向かっています。調達の安定化から考えると、これほど深刻な問題はありません。跡継ぎ、事業継承といえば、息子さんか娘さんか、あるいは娘の旦那です。しかし、東京の大学に進み、そのまま大手に就職して戻ってこない。事業継承のセミナーも大盛況です。
私は以前、というかこのごろまで、合理的に考えていました。「継ぎたくないのは、事業に価値がないからだ。価値があれば、その会社がなくなっても、誰かがその事業に参入する。また、息子に継げなくても、従業員が継ごうとするだろう」と。しかし、これはあくまで調達・購買側、あるいは評論家としての意見であって、現実にはそううまく行きません。
このところ、中小企業と仕事をする機会が多いのですが、こんなことが起きています。社長が「やあ、君。次の社長を任せるよ」と、たとえば、エースの取締役に話すとしますよね。エースの取締役は「わかりました」というのですが、家に帰って奥さんに相談します。すると、奥さんは最初は賛成するのですが、実態を知ると大反対するのです。たとえば、借金の個人保証が必須だとか、自宅を担保に入れる必要があるとか……。
ときには奥さんは泣くんです。「あなたは、社長になったら、家族が路頭に迷う可能性があるのでしょう。この家もなくなってしまう。定額のお給料が入るサラリーマンのままでいいじゃないですか」と。「息子はまだ大学生ですよ」と。会社の企業評価があって、株式が相対的に安価に手に入るのであれば、従業員が継いでも合理的です。しかし、その合理性を超越したところで、奥さんの反対にあう。これが男にとっては大変です。
こう書いていますが、独身の男性が読んでも実感がないでしょう。しかし、20年後にはわかるよ(苦笑)。
ということで、私は、このところやはり親族が継ぐのが一番だと考えるにいたりました。では、なぜ他人が継げないのか。それは、社長のキャラクタービジネスになっているからです。今日のタイトルにある○○○とは、キャラクタービジネスです。倒産はいいすぎです。少なくとも、永続させるには、脱キャラクタービジネスである必要があります。
キャラクタービジネスとは、結局、その社長がいるから成り立つビジネスです。古参の社員は、あの社長ならと働き、取引先も、あの社長ならと仕事をしてくれる。技術の開発も、なんだかんだもめたときの問題解決も、その社長がいるからこそ。そういう中小企業が大半です。社長が優秀であるからこそ、その社長がいなければ何もできない、という皮肉。そう考えると、本田宗一郎氏は、自分は何もできないと公言し、周囲に任せていった態度はすごいですよね。
まだ考えはまとまっていないのですが、これからの安定調達を考える際に、「ベンチャーは社長が引っ張るしかないが、成熟企業は社長がむしろ何もやっていないこと」が評価の指標になるのではないか、と思うこのごろです。