ご相談がありますが、よろしいでしょうか。(坂口孝則)

鳴り止まない電話、次々に降りかかるトラブル、無数に届くメール、社内からの罵声、サプライヤからの苦情、机に溜まってゆく見積り書、怒鳴り声、10分で済ます昼食、生産遅延に関する責任のなすりつけ、休日に突然の呼び出し、営業マンとの言い争い、アシスタント女性からの不平不満……。何もかもが混同している空間。私はこのような場所でバイヤーという仕事を始めました。

また、処女作でも書いたとおり、運良く私はバイヤーという仕事を通じて様々なことを経験しました。サプライヤの役員に個室で罵声を浴びさせられたこと、納入を間に合わせるために徹夜で工場に張り付いたこと、営業マンが自腹で誕生日プレゼントを買ってくれたこと、無気力なバイヤーたちとの触れ合い続けたこと、親子ほども歳の違う設計者から「お前がいれば安心だ」と酔いながら叫ばれたこと、サプライヤが倒産してしまったこと、「一緒に会社をつくりましょうよ」と営業マンから誘われたこと、サプライヤから私を担当から外すように上司に依頼があったこと、年輩バイヤーからの仕事の丸投げ、会社の他部門からスカウトされたこと、土曜に営業マンの自宅にまで行って見積りの内容を深夜まで確認したこと、遠く離れた先輩バイヤーが今でも家に招待してくれること。

「あなたとの仕事は本当に楽しかったよ」と泣きながら硬い握手をされたこと。

調達・購買業務とは、単にサプライヤとメールのやりとりをすることではなく、その瞬間に自分をさらけ出し、会社のみならず調達構造全体をよりよくする試行だ、と私は思います。私は、ほんとうに偶然に調達・購買という仕事をはじめました。そこで強烈に感じたのは、この世界の絶望さです。何をやっても評価されない。繰り返しばかり。終わりの見えない仕事。他部門の上から目線。「はいはい、あんたらは発注書の処理だけしといてよ」という社内の押し付け。上がらない社内地位……。私は、このような状況を変えるために全力を尽くそうと決めています。これが、私が仕事をしている理由です。

現在、働き方改革が叫ばれています。しかし、どうしても、「働き方改革」=「働かない改革」になっているようです。それでいいのでしょうか。これを機会に調達・購買のあり方を変えていかねばらないのではないでしょうか。部員の意識を変え、そして、ほんとうに意味ある仕事をしていかねばならない。そして、一人ひとりが、仕事は楽しいと確信をもてるようにせねばならない。

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