調達の目標はQCD向上から○○へ(坂口孝則)

「あの倒れ方は普通ではない!」

会議でハッとさせられるのは、資料に書かれていないかったり、議論対象とすらなっていなかったりする事象について指摘があったときです。資料に書かれたデータからコメントするのは簡単でしょう。もしかしたらテレビ等でのコメントも同じかもしれませんね。

ところで2001年9月11日に米国のワールドトレードセンターに航空機が突っ込む同時多発テロが起きました。その当時、私は社会人でしたが、異常な空気を覚えています。その後、しばらくして、冒頭のセリフを聞きました。「あの倒れ方は普通ではない!」と。

その意味とは、ワールドトレードセンターが横に倒れていたら、もっと尋常な被害だったというのです。誤解しないでください。死者数は多かろうが、少なかろうが、痛ましいことに違いはありません。ただ、そのうえで、ワールドトレードセンターは下に崩壊しました。

あとで調べると、ワールドトレードセンターはなんと航空機がぶつかる可能性をリスクとして設計されているのですね。テロ対策ではなく、濃霧により誤った激突に備えて横倒しにならないようにリスクヘッジがなされていました。ただ、この文章で初めて知ったひとが多いのではないでしょうか。実際の被害は語られます。ただリスク対策によって「あったはず」の被害は語られません。

話は変わるようで変わりません。先日、イベント「日本の調達部」を開催しました。そこで7人の方々と対談しました。

災害や疫病へのリスクヘッジが、なにもなされていなかったわけではありません。数字で示すのは困難ですが、東日本大震災、熊本地震等を教訓とした対策も講じられており、新型コロナウィルスの被害はまだ抑えられているはずです。しかし語られるのは実際に起きた影響のみです。調達業務は、納期が遅れたら騒ぎますが、納期問題がなければ褒められません。

対談でサプライチェーンや調達の仕事は難儀だと感じました。やれて当たり前、やれなかったら減点法で怒られる。

ここで難しいのは、「事態が起きるたびに、施策はアップデートせねばならない」、しかし「常に予想外のことが起きるので、くじけてはいけない」といった問題です。ワールドトレードセンターの例でいえば、無策ではなかった。しかし、さらに対策を考えるしかありません。

また対談者のお一人がおっしゃっていたのが、「BCPなんてものに頼ってはいけない」と。予想できる事態は少ないので、「とにかく先手、先手で動くしかない」と。つまり調達の仕事は「QCD向上業」といった単純な思考ではなく、「環境対応業」でなければならないのです。ご勤務先の企業では、なんと2020年1月から新型コロナウィルス対応として、中国調達品の代替テストをはじめたそうです。

機敏さこそがこれからの価値になる。とりあえず動け、動きながら考える文化を組織に! とは印象的です。

さらに、違う対談者は「企業を取り巻く環境がめまぐるしく変わっているので、調達人材は、これから世界情勢から経済トレンドまでを学ばねばならない」とも。技術職と違って事務職は、あらゆる知を総動員しながら仕事にあたるしかありません。

そこで最後に、発言者はバラバラですが、先日のイベントで面白かった内容を共有します。

・米中経済戦争の動きを予想しなければ、国際調達はできない
・調達人材は「商務のプロフェッショナル」になるしかない
・企業全体のキャッシュフローに敏感になれ
・BCPを盲信せずにとにかく動け
・調達人材に必要なのはリベラルアーツ

また次回もよろしくお願いします。

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