安定調達と人生の法則

以前、桑田佳祐せんせいだったかと思うが、「アーティストっていうのは処女作を超すことは非常に難しい」と語っておられたのを聞いて、「おお、そういうものか」と感じたことを思い出す。

他のアーティストもそうかもしれないが、処女作というものはそれまでの歴史が詰まっていることもあったりして、それ以降の作品では醸せ出せないような魅力に満ちていることが多い。

話は変わるが、私は「有名メーカー」というところに勤めていた。「」つきで書いたのは恥かしいからでもあり、さらに有名という箇所が重要だからだ。

有名メーカーは発展のきっかけとなった処女作を持っている。いや、別に処女作ではなくてもいい。次作だっていい。なんにせよ、飛躍のきっかけとなるような作品を持っているものだ。派手すぎるものや、話題性だけのものだっていい。

だけど、少年が大人になるようにどこだって多少はその派手さを潜めさせ万人にウケるものを生産しだす。だからこそ、その飛躍のきっかけとなったものは思い出深く、メーカーによっては伝説の対象となっているのだろう。

これってどこか前述のアーティストの話にもつながるような気がする。そうやって初期作品を思い出しては望郷のような感情がわいてくる。

しかし、だ。別に私は万人向けに商品をつくることが悪いことだとは思わない。むしろ、万人向けのものをひたすら創り(作り)続けることこそが難しいことだと思っている。ただし、評論家のみなさまにはなかなか評価されない。

だが、思えば最初は話題づくりにそのようなトリッキーさに溢れる若々しいものが必要だったとしても、それだけではいけない。やっぱりどこか大人に脱皮する瞬間が必要となってくる。

そして平凡な、でも確実なものが大切になってくる。その大切さは普通に生活していたら気づかないものではあるけれど。

ここで話を脱線させると、そのような平凡なものにこそ各人の魂が篭るのではないかと思う。初速の力も大切だが、慣性の法則に従ってさえ転がり続けることも同じように尊いことだ。そう思えば、あなたが友人と普通に過ごせていることも、恋人と過ごせていることも、なんだかその普通の中に奇跡すら感じてしまう。

普通の転がりの中にこそ、感動があり、ただただ「そこに居続ける」ことに感謝をせねばならないかもしれない。

サプライヤーとの関係においても、どこか問題を起こすところだけが注目されるけれど、その裏には何の問題もない無数の「優れた」サプライヤーがいる。ヘタな問題を引き起こして見事に解決する営業マンよりも、そもそも問題を出さずに毎日を過ごさせてくれている声なき営業マンたちに感謝したい。

そう思えば、あなたの隣に居るアシスタントもあなたの業務を円滑化させるために日々努力してくれているのではないか。普段は気づかなかったとしても。

そして、その奇跡の中に身を置いている事実のみを事実として感謝できるようになることこそ、昔の人の言う「大人になる」の本質ではないかと最近つとに思う。

老けただけですかね。

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