サプライヤから殴られないようにしてください(坂口孝則)
「ぶん殴って、帰ってやろうかと思いました」
某有名企業へ納品している、取引先の役員と話しているときのことです。その某有名企業は先日、決算を発表したばかり。2019年はなんとか黒字でしたが、コロナ禍のせいで、2020年の決算は大幅な減収減益を予定してます。どうやって、黒字を確保するか。けっきょくは、取引先に納品価格を下げてもらうしかない、というわけです。
私と話していた役員は、その某有名企業に呼ばれて、要請を聞いたようです。出てきた数字が、なんと「前値比15%以上の削減をお願いしたい!」と。「どうやって下げるのですか」と質問すると、「それを考えてもらいたい」だってさ。仕様を削るアイディアは、ほとんどの場合は認められません。ほら、調達部員とか設計者の口癖があるではないですか。
「素晴らしいですが、既存品は変更できません。新規設計時には参考にします」と。
だから、つまりは価格だけ下げろということなのです。面白いのは、コスト削減を要求している調達側も無理難題と理解している点です。私のもとに「上司から、とにかくコスト削減をしろと命令されています。でも、下がる根拠なんてありません」。誰もが苦しんでいるんですね。
話は変わるようですが、変わりません。私はイスラエルに出張に行ってから、あの国の特異性に注目しています。コロナ禍でイスラエルは、真っ先に諜報機関であるモサドに、マスクや人工呼吸器、防具服類を調達するように命じています。彼らは特殊ルートで調達を実現しました。そして、ハイテク企業を導入して、感染者経路を明らかにするシステムを即座に完成させました。
しかも、ただちにパレスチナの政商とガザ地区に、マスクや医療器具等を生産する拠点を作り上げました。コロナ禍をビジネスに転換し、むしろ躍進のキッカケをつかんだのです。私はイスラエルの悪い面も学びました。だからイスラエル礼賛ではありません。しかし、コロナ禍で苦境に陥るところと、見事に「利用」するところは、大きな差となって表出しています。
これは反省を含んでいいますが、日本の調達理論は、基本的に量が増加を前提にしています。量が減るときに、でも安価になる理屈がありません。また、価格が高くても、付加価値がある場合、正しく評価できません。現在は安定調達に注力し、会社全体では最終製品の価格を上げるべきときなのに、旧来の方法に拘泥しているのです。
きっと、中国かどこかの高笑いが聞こえてくるでしょう。せめて個人として私たちは、来たるべき激変の時代に備えて、プロとしてのスキルを向上させたいものです。