ピンチは好機のはず(坂口孝則)

ある組織は、すぐさま業務のやり方を変革し、デジタルやテレワークに切り替えています。いっぽうで、多くは従来のまま。紙やハンコもまだ残りそうな勢いです。ソーシャル・ディスタンスならぬデジタル・ディスタンスともいうべき病気です。

日ごろ、口では「新たなことに挑戦を!」と社員に言っているのに、緊急時にトップこそ変わろうとしない、と失望する若手が多くいます。まさに、既存のやり方に固執しようとする、「慣習クラスター」ではないですか。

さて、私はこのところ興味があって、疫病等が日本で流行した際に、どのような影響があったのか文献でよく調べています。たとえば、ペスト、スペイン風邪、そしてHIVなど。結果からいうと、ほとんど人間の行動様式に変化はなかったようです。

HIVが流行し、90年代の初頭には、米国で若年層の死因トップになったことがあります。その際は、人びとのふれあいはもうなくなるとか、殻に閉じこもって生きるしかない、といった論調が目立ちました。でも、数年が経ったら、すぐさま元の生活に戻っていきました。

その意味では、冒頭で書いた、業務を変えようもしない組織の存在は歴史的に見ても、そういうものかもしれません。新型コロナウィルスがさほど何かを変えないかもしれない。

でも、確実に価値観の転換は起きるのです。行動はさほど変わらないかもしれない。でも、価値観は変わる。たとえば、日本でペストが流行した際、ネズミがペスト菌を媒介していたために、ネズミを駆除するため飼い猫の文化が生じました。猫は家族という価値観はここから生まれます。

また、HIVの流行が、マイノリティたちの決起を促し、そして現代のLGBTまでつながっていきました。ダイバーシティも近年にやっとできあがった思想です。いま調達業務で欠かせない、CSRやSDGsも、この流れから理解されるべきものです。

だからきっと新型コロナウィルスも、価値観の転換をもたらすはずです。調達業務で当たり前のような、対面主義、三密取引(密室、密談、密約)、不明瞭な決定プロセス、とにかくサプライヤを呼びつける病……。これらは再考を要するでしょう。現在、私は調達業務の新様式をまとめて発表する予定です。それはこれまでの悪弊を駆逐する動きでもあります。

ピンチは好機のはずなのですから。

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