拝啓、調達関係者の奥様たちへ(坂口孝則)
調達関係者の奥様、あるいは彼女様へ。私はみなさんに向けて書いています。また、調達関係者の旦那様、あるいは彼氏様へ向けたものでもあります。もちろん、頼まれたわけではありません。調達の仕事をちょっと知っていただきたいと思い、筆を執りました。
調達という仕事を知っていますか。私は調達コンサルタントと名乗っていますが、初対面のひとから「資金調達は難しいですよね」といわれます。でも、みなさんのパートナーがやっている調達業務とは、モノやサービスを買ってくる仕事です。部品や材料かもしれませんし、外注、プログラミング、研究開発委託……調達対象はさまざまなものがあり、調達部員は、自社と外部の企業とつなぎます。
私は大学を卒業して、すぐさま調達部門に配属されました。ある方から、調達部門に配属される新入社員の特徴は「入社試験の成績が最下位であることと、右腕が強いことだ」といわれました。後者の理由を聞いたところ、発注伝票を書き続けても疲れずに、商談室で机を叩きながら交渉しなければならないから、というわけです。かつては、伝票を右から左に流すだけの仕事と思われていました。
そこから幾星霜。
企業の利益源は調達といわれるようになりました。調達部門が価格交渉をしたり、取引先を選んだりするからです。この時代は、商品の在庫をもっていても、いつ売れるかわかりません。在庫が企業を圧迫しているのです。しかし、コロナ禍では、買い叩くこともできません。売上が下がり続けた取引先が倒産してしまうかもしれないからです。
あなたの旦那様(奥様)や彼氏様(彼女様)が勤めている企業の歴史は50年以上ありますか。それであれば、その企業の70年代あたりの社長さんインタビューを調べて読んでみてください。きっと、何も考えていないことに驚くはずです。もっといえば、いまの課長や部長のほうがはるかにマシです。伝説的な経営者はいますが、大半は人口増に伴う市場拡大があったために、普通にやっていればよかった時代でした。
ところで現在、あなたの見る旦那様(奥様)や彼氏様(彼女様)は怒りっぽくなっていませんか。あるいは、ひどく落ち込んでいたり、落ち着きなくなっていませんか。私はさまざまな企業の調達人と付き合っていますが、ほんとうに余裕がなくなっています。
現在は、検討しなければならない領域が広すぎるのです。米中の経済戦争、新型コロナウィルス、地球環境保護、市場の激変。さらに、他部門間との調整、会議の増大、書類の増加、上司からの無理なコスト削減の命令、取引先からの苦情。官僚は公文書を捨てますが、企業は調達品と取引先決定の根拠付けとしていろんな記録を残す必要があります。
繰り返します。あなたの旦那様(奥様)や彼氏様(彼女様)が従業している調達という仕事は、いまやとんでもない状況にあります。ストレスフルです。しかも、この仕事は「潰しが効かない」とか「そもそも定年まで勤められない」ともいわれています。
ここから現代的なノウハウや情報収集などをお伝えするところです。ただ、今回は旦那様(奥様)や彼氏様(彼女様)に向けて書いています。そこでお願いがあります。横にいるその人と一緒に泣く機会を作ってくれませんか。あなたの想像以上に、その人は人前で泣かないような教育を受けています。泣くといっても、悲しみではなく、感動です。人間は感情をむき出しにする機会がなければ潰れます。そこで映画でもドラマでも、泣けるやつを一緒に見てください。
くわえて、話にくいとは思うのですが、パートナーの将来の仕事について話し合ってくれませんか。同じ会社にいるのでも、離れるにも、方向性が定まっていれば、日々が変わります。「あー、これも勉強しなきゃなー」とか「この業務もやっておくかなー」と意識が変わります。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
敬具