ルールのためのルールでバイヤーはつぶれる
あなたの会社は新規メーカーから何かを購入すると決めるときどのような作業・書類が必要だろうか?
私が以前勤めていた企業では、次のような作業・書類が必要だった。
・温度、環境、動作試験
・工場品質証明取得の有無(ISO等)
・品質管理体制図
・工場監査、およびその指摘点の改善確認
・使用部品の物質、環境対応
・資本金等の企業情報
・企業安全性、収益性書類
・ガチガチの取引基本契約書
と、もっと必要だった。正確には必要な書類が多すぎて忘れてしまった。
本当に笑ってしまうほどだったが、これらの書類が必要だった理由は、ルールのためのルールが存在していたからだ。そしてルールさえ守れば、責任逃れが出来ると考えられていたその体質にあった。
いや、ルールは必要だ。これは私だって賛成する。ルールがなければ、組織を動かすことが出来ない。誰もが勝手に行動してしまったら、その組織のまとまりなど臨みようもない。実際に有効なルールも数多く存在している。
難しいのはルールに必ずカバーできない領域が存在してしまうことだ。
その例外に出会ったとき、その組織はどうするか。
ほとんどの場合、新たなルールを作り出すのだ。
「再発防止のため、ルールを作りましょう」このような提案を正面切って反対できる人などいるはずもない。この発言が問題なのは、その正論性によって、その後の手間を考慮できないことにある。
そうすると、今までのルールが新規ルールと矛盾することも発生する。ここで常識人ならばどちらかをなくすのだが、会社人というのは多くの場合「常識人」でないから、そのルールとルールを調整するルールを作ってしまう。
簡単に考えれば分かるこのバカバカしさが理解できず、複雑なル-ルが存在し続けてしまう。
私は後輩には皮肉を込めてこう言ってきた。「社内のプロになりたければ、まず購買規約等のルールに熟知することだ。そして、誰も知らないような一文を会議で発言せよ」と。そうすれば間違いなくその組織で目立ち重宝され、かつその組織でしか使えない「優秀なバイヤー」が誕生する。
もし、ルールの抜け穴を発見し、自分のチームだけにここぞとばかりに報告すれば最高だ。
しかし、そのようなバイヤーはあなたがなるべきバイヤーと正反対であるはずだ。
もう一度、なぜそのルールが必要なのか、なぜそのメーカーを新規参入させるべきなのかを自分の頭のみで納得できるまで考えること -- これが必要なのではないだろうか。
この「ルール」というものだけは担当者一人で改廃することが困難である。
ただ、少なくともそのバカバカしさに自覚的になることはできる。
ここでお決まりのアドバイスを言うならば「ルールを熟知した実践者になること」「ルールを完璧に守るバイヤー」になること、であろう。
しかし、ここも自分の頭だけで考えて欲しい。「私はどうすべきなのだ?」「どうやったら変えることができるんだ?」。
そしてどうしても変えることが出来なかったら、そんな会社を辞めてしまってもいい。少なくともルールに縛られて、その組織でしか役立たない「特殊能力」を育てても仕方がない。
ただし、退職の手続きは「ルールにのっとって」すること。それがその組織に対する最大の皮肉になるだろうから。
まずはこう思おう。あの老年者のようにならない、と。