エイズになって3千万円をもらおう

ある人がエイズになったとする。

そしてかなりの確率で、その人は半年後に死んでしまう。

 

自分には5千万円の保険がかけられている。しかし、その人にとって、自分が死んでしまった後の5千万円など一体何の価値があるだろうか。残った親類に対する配慮は当たり前だが、やはりその人にとっての「価値」は生きているうちに使える5千万円ではないだろうか。

 

すると、この人に対して話を持ちかける人がいる。

 

「5千万円の生命保険の受給権利を私に3千万円で売ってくれませんか。私は、エージェントにこの権利を4千万円で転売します。すると、エージェントは、見たこともないあなたが死ぬだけで1千万円の利益を得ます。あなたも3千万円を生きているうちに使うことができます。しかも誰もこの取引で不幸になる人はいません」

 

私は、この話を聞いて、需要がある全てのものは取引関係を生じさせる可能性があるのだ、という当たり前の事実を思い知った。

 

取引には売り手と買い手がいる。お互いが合意した金額で取引が成立する。

 

これほど単純な図式はない。

 

そして、「バイヤー」という単語だけで共通点のある我々買い手集団は、お互いが想像もできないような多種多様なモノを購入しつづけているのだ。

 

買い手は、売り手の商品を使って、自社の製品に組み込んだり転売したりして利益を得る。売り手も、製品を買ってもらうことで利益を出し潤う。まさに、WIN-WINの法則だ。
(上記のエイズ生命保険の売り買いも、おそろしく皮肉なWIN-WINの法則の例だろう)

 

しかし、「WIN-WINの法則」なんてコトバが流行っているとき、私はそんなものを考える余裕も、信じる余裕も、なかった。

 

最初に入社したとき配属された調達部門で仕事をやりはじめた数ヶ月は、イヤでイヤでしょうがなかった。

 

仕様を勝手に決め、購入する品目まで勝手に決めてしまっている社内の設計者たち。価格の交渉をしようとすると、「いやぁ、この金額で設計の○○さんからは合意もらっていますよ」などと言うメーカー営業マン。

 

購入する絶対的な量が少なすぎ、売り手のメーカーにとってもあまり優良なお客さんでもない。そんな状況で殿様的な価格交渉を進めることは普通に考えれば土台無理な話。

 

真剣に購入方針・ビジョンを営業マンに語ったこともあったが、当時の景気では勤務企業自体が事業計画をコロコロ変えることもちらほら。真剣に相手にされなかった。

 

多くの若手バイヤーは、先輩バイヤーを見て、「なぜこのような不条理な世界でうまくやっていけているのだろう」と疑問に思うのではないだろうか。

 

しかし、多くの場合は、現状というものに屈し、それを前提に上手く生き抜く術を身に付けたに過ぎない場合が多い。

 

会社は多くの人の感覚を麻痺させる。

 

その麻痺から立ち直ろう。まずは身の回りで改善できることを徹底的に洗いなおすだけだ。

 

・価格交渉のとき面倒だからといって下がる余地があるのに妥協していませんか。
・ムダ、とわかっている作業を繰り返していませんか。
・個人としては絶対にやらない行為(まとめ買いや商品廃却)をやっていませんか。

 

自分のお金であれば、自分の好きなもの以外の服など買うはずがない。自分の納得したもの以外は買うはずがない。会社の金であれば自分の納得しないものでも買っていい、などということがあってもよいだろうか。

 

これは買うべきだ、個人としても買いたい。そしてこれを買うことによって自社の利益になるはずだ。これを確信できず、ものを買ってもよいだろうか。

 

やるべきことは簡単だ。自分で納得した買い物をしよう。そしてもしそれが自分の金であっても、後悔しない金の使い方を、しよう。

 

そして、真の意味でのWIN-WINの関係を構築するために、バイヤーが自主的に考え、実現するべきときなのだ。妥協せぬ価格交渉が、いつしかサプライヤー企業の体質改善に深く結びついていることを自覚し、真摯に、厳しく、愚直に、自己の業務に取組むべきなのだ。

 

理屈抜きで単にコストだけ下げられるサプライヤーに将来のWINがあるはずがない。真のWINとは、相手先に将来につながる施策(それはときにサプライヤーにとっては困難を伴うが)を持って粛々と接する先にのみあることだと自覚することなのだ。

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