もはや調達業務は自社の命運を握る(坂口孝則)

2021年5月、ファーストリテイリング(ユニクロ)の商品が北米税関で許可されないことになりました。理由は、新疆ウイグル自治区からの原材料等を使用していた可能性があるためです。

執筆時点(2021年5月)では、米国税関が下した決定の全文は公開されていません(正確には公開された後、一時的に削除されました)。ファーストリテイリング側は、ウイグルからの調達を否定しています。また同社は数回に渡り抗議通知を送ったことも明らかになっています。

細部が明らかではありません。そこで、現時点では、同社の説明ではなく米国の輸入拒否の背景を説明します。

まず2020年7月に、米国は国務省の意向を受け、税関が「違反商品保留命令」を発行しました。ここでウイグルは名指しされており、調査や内部通報によって同地域の人権弾圧が合理的に明らかだとしました。そして米国に輸入される商品が同地域と関わってはいけないと警告しました。

なおこれは掛け声ではなく、人権遵守を謳う連邦法に基づく規定だとしました。

ここで問題となるのは、もし米国当局から疑われた際の対応です。普通に考えれば、ウイグルから調達していなければ、実際の調達国における原産地証明書を提出すればいいように思います。しかし、当局は「商品の全部または一部が強制労働で製造されていない完全な証明」を求めています。

つまり「ここから調達したよ」ではなく「ほんの一部でもウイグルが関わっていない」ことを証明せよ、と悪魔の証明を求めています。

細部は米国税関当局の資料を見てください。例として、下が挙げられています。

・糸生産者の宣誓供述書
・綿の供給元、ならびに糸と原綿の発注書、請求書、支払い証明
・綿花栽培者から糸製造業者への輸送書類
・糸生産者に販売された原綿に関連する日次証明書
・生産プロセスと生産記録のリスト
・綿を選んだ従業員のリスト、タイムカードなど、賃金支払いの証明書

かなり酷です。

しかし私たち実務家は対応せねばなりません。そこで米国の税関が輸入品の拘留命令を出す地域を発表していますので一読になってください。ご参考までにいえば日本では、府中刑務所が「ビデオゲーム」を製造しているとかで拘留命令が出ています。

調達品のルートが他国の税関から疑いをかけられ、さらに実際の輸入停止にいたるのは大きな問題をはらみます。私たちは少なくとも人権が蹂躙されている地域を把握し、サプライチェーンに大きな注意を払うべき時代にいると認識すべきでしょう。

私は10年以上前に、サプライヤ選定は「QCD」ではなく「QCDP」の時代だと書きました。Pはパートナーシップのこと。つまり製品の確保が重要な時代には、サプライヤの協力度合いが重要という意味でした。それがこれからは「QCDH」の時代になりそうです。Hとは人権、ヒューマンライツのこと。

もはや調達業務は自社の命運を握るようになりました。一連の動きに注目しましょう。

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