異常事態発生、調達力が国力になる日(坂口孝則)

世の中の評価はすぐに変わります。私は、地震などの災害よりも日本人の手のひら返しがもっとも恐いと感じています。

台湾の評価もそうでした。つい最近までは、台湾は新型コロナ優等生といわれていました。しかしこのところ一気に新型コロナが広がり、さらにワクチン確保もできていなかったことから、劣等生の扱いです。なお、優秀だったからワクチン供給が後回しにされていたので、批判は慎重にせねばなりません。

そこで再注目を浴びたのが、テリーゴウ氏です。世界最大のOEMであるホンハイの創始者といったほうが良いでしょうか。彼は政治の世界に転身しましたが、連日のように「私ならワクチン調達が可能だ」と世論に訴えました。台湾の現政権は拒絶反応を示しましたが、世論に押されました。何より台湾政権はワクチン入手が思うように進まなかった負い目もありました。

国民からしても、テリーゴウ氏に任せればワクチンを入手できる可能性があります。台湾の現政権は「中国の妨害でワクチンを入手できない」と告白していました。本来ならばドイツのビオンテックから供給を受けるはずでしたが、中国企業が独占契約を結んだためです。

そしてついに台湾政府は、テリーゴウ氏のワクチン調達交渉を止められませんでした。氏は、そこから中国当局と話をまとめ、数百万回分の集団接種分と、おなじく数百万分の職域接種分を確保してしまいます。この表現は適切ではなく、「確保してしまいます」ではなく、「確保できました」が正しいでしょう。

しかし台湾の政局はこの調達によって、大きく揺るいでいます。この調達力は称賛されるべきであり、台湾の方々の公衆衛生を考えれば決して批判されるものではありません。しかし、それでもなお、調達の上手さによって国民の政権支持が二分し、国際政治にすら影響を与えようとしています。これから蔡英文政権の運営は容易ではありません。

ワクチンの調達力が国力になり、さらにそれが政治の勢力図すらも左右する時代になっているのです。

これからも数年に一度はパンデミックが起き、医療戦略物資やワクチンの調達の優劣によって国力を規定するでしょう。これまで国の力は、何かを発信する力であると考えられてきました。ただ、これから国の力は調達力になるのです。

私たちは調達業務に従業しながら、調達の意義と力を過小評価していました。私は希望も含めて「調達が企業を変える」と20年前に宣言しました。しかし、時代は「調達が国すらも変える」状況にあります。

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