嘘つきとデタラメが調達業務を進化させる(坂口孝則)

就寝時、私は小学生の息子に本を読んであげます。自分の読書経験から、星新一さんの短編SF小説を選んでいます。別役実さんの短編集『淋しいおさかな』もいいですが、星新一さんは別格ですね。

ところで私は新潮文庫から出ている星新一さんの書籍をすべて読んでいるのですが、ほとんど覚えていません。読んであげていると「こんな話があったっけ?」と思うことばかりです。先日、大変に興味深い短編に出会いましたタイトルは『破滅の時』です。ネタバレの説明すみません。

地球に、突然、宇宙船がやってきます。どんな攻撃もまったく無駄。すると、宇宙人が出てきて、このままだと地球が破滅する、と言い残します。そして、その宇宙人は死亡。地球人たちは驚きます。この一言を残すために宇宙人がやってきてくれたのです。地球には争いごとがなくなります。破滅の前に、地球人どうしで闘っているヒマなどないのです。国をまたいだ技術開発も進みます。全員が一丸となってよりよい地球を目指すのです。

地球人は、技術革新を重ね、やっとその宇宙人の惑星に到達します。すると、地球にやってきたその宇宙人は嘘つきでデタラメな奴であったと発覚します。地球がこのままだと破滅する、というのも根拠のない発言でした。しかし、地球は、そのデタラメを信じて、劇的に進化していたのでした……。

カーボンニュートラルと重ねると怒られるかもしれません。

私の幼いころから、自動車の排ガスと地球温暖化は関係がない、という懐疑論はありました。しかし、大都市の空は、各社の努力の結果、以前に比べてはるかにキレイになっています。これは『破滅の時』の相似形では?

先日、オンラインで「脱炭素調達の基礎編」を開催しました。参加者数が多くてびっくりしました。参加者の方から、後日、質問をいただきました。「脱炭素」自体が世界規模の詐欺ではないのか、と。なるほど、そうかもしれません。温室効果ガスの排出は中国と米国が大半です。日本などが削減しても全体的な効果はほとんどありません。さらに中国は算出量の計算も怪しい。

ただし、『破滅の時』的に考えればどうでしょうか。脱炭素を打ち出すことで、もしかすると数十年後の世界はよりましになっているかもしれません。一つひとつの施策を見ていくと、正直、疑問が浮かぶものは少なくありません。ただ、それでもなお、もはや脱炭素を反論するような余地は残っていない、とリアリスティックに考えるべきでしょう。

現時点では、調達・購買部門が積極的に脱炭素に携わっているかというと、そうではありません。企画部門やCSR部門が排出量を仮定している企業が大半で、多くの調達・購買部員は排出量の算定手法すら知らないのが現実です。実際には、調達金額から、一定の比率を掛け算して排出量を計算します。そして排出量の多いサプライヤを順位付けて削減に取り組む必要があります。再生エネルギーが進んでいない日本では、もはや工場が成り立たない時代がやって来ようとしているのです。そして、調達・購買部門は、QCDだけではなく、QCCDを考慮することになるでしょう。

もちろんもう一つのCはカーボンのCです。サプライヤ評価軸も刷新するタイミングなのかもしれません。もし脱炭素がデタラメでも結果としてより良い世界になる可能性は多々あります。そして、私たちは大きく脱炭素に舵を切ろうとする世界に住んでいます。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい