会社から不条理を命じられても死んではいけない(坂口孝則)

「不正行為のオンパレードではないか」

調達業務に携わるみなさん、もしお時間があればご覧ください。ジャパンディスプレイの第三者調査委員会の資料です。外部URLのため、リンクは貼りません。ただ、「第三者調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」と検索いただければ、ヒットするはずです。

発表日は2020年4月13日です。私は連休を使って読みました。元々は、同社の社員が、業務上横領で多額のお金を引き出したとするものです。奇妙なのは、その操作が、会社の業績を上げるため、つまり粉飾目的で行われている点です。個人の横領というよりも会社に奉公した感があります。実際に報告書では、上司のCFOも認識していたといいます。その後、横領に手を染めた社員は、不幸にも自殺しました。

皮肉ではないのですが、こうすれば粉飾決算ができるのかと、さまざまな手法が使われています。大変に学びのある資料です。繰り返し、リンクは貼らないので、検索してください。

・業務委託費を資産計上
・貯蔵品の過大計上、架空計上
・費用の固定資産化

などです。お若い方は難しいかもしれませんが、調達部員としても、こういった会社の仕組みを理解するのは重要です。

<消耗品費(治具)の固定資産計上>という箇所は、リアルですごい。現場から、調達部門が支払った、治具の改造費用が費用計上すべきか、固定資産計上すべきか事業本部に質問する場面が記述されています。説明するのは野暮ですが、費用計上してしまえば、その期の利益は減ります。ただ、固定資産計上すれば、その期の利益は伸びます。ただ、その一つひとつを細分化した際、一件あたり10万円にいたっていなければ、費用計上するべきです。

しかし、利益を伸ばしたいと考えている事業本部は、こう答えます。

<税法上、たとえ10万円未満であっても使用可能期間が1年以上であれば資産計上するのが原則であるといった、社内の会計規則に存在しないばかりか、対象が消耗品であるという事実を無視した独自の解釈を示し、当該固定資産計上は会計処理上も問題がない旨伝えている>

ちょっとした経済小説よりも興味深い内容が記されています。

しかし、それよりも、私が気になったのは、自殺した社員について、このような記述があることです。

<A氏の性格・言動については、親分肌、同僚から慕われる、部下からの信望が厚い、上司や世話になった人に貢献したいといった「男気」がある、周囲の人間(特に上位者)からの承認欲求が強い、という関係者の証言が多かった。A氏の主観的な事情については、本人が死亡したため、直接確認することはできなかったが、業績不振にあえぐ会社を何とかしたい、上長であるCFOを守らなければならないという「男気」、自分ならなんとかやれるという能力への自負、上位者に認めてもらいたいという承認欲求等があり、後記のような規範意識の鈍麻や様々なプレッシャーと相俟って、自分の力で会社の数字をよく見せることで会社やCFOを守る、といった歪んだ正義感を抱き、不適切会計処理が正当化されたものと考えられる>

私は第三者の報告書で「男気」なる単語を見た経験はありません。非常に考えさせられます。氏は自殺してしまいましたが、組織というものに、命を捨てる価値はあったのでしょうか。以前、天才・寺山修司は「身捨つるほどの祖国はありや」と述べました。

コロナ禍のなか、不振が続く企業は、なりふりかまわず人員整理を断行せねばならないでしょう。そのとき、「身捨つるほどの自社はありや」と問うてみたいと思います。私たちは、同時に、どこでも食っていけるスキル構築に迫られています。

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