岸田文雄総理が迫る調達業務改革(坂口孝則)
岸田文雄さんが100代目の内閣総理大臣になり新内閣が発足しました。私はできるだけ、政治と歴史観とプロ野球については語らないようにしていますが、今回は事実と考察を述べます。
岸田総理の経済政策は日本型の資本主義を目指すというもので、さほど明確なものが知られていません。ただ、具体的な内容として「下請けいじめゼロ」と「四半期開示の見直し」があります。そして二つはつながっています。
まず「下請けいじめゼロ」では、2010年代から大企業の利益は伸び続けているのに、中小零細企業の利益は伸びておらず、さらに従業員へ給与として還元されていないとします。そのため、これからは企業間の取引を監視し、不合理な価格にならないようにするとしました。かつて2016年12月から下請法の運用ルールが強化されたことを思い出した人も多いでしょう。
そして岸田総理はあわせて「四半期開示の見直し」を強調しています。上場企業等は四半期に一度の業績報告を公告する必要があります。だからこそ、短期的な利益に走りがちだという指摘がありました。そこで四半期にとらわれずに業績を管理できるようになれば、コストカットに走らなくなるだろう、というわけです。
これらの政策の効果については断言を避けます。みなさんの立場からして、「四半期開示」が廃止されたとして、下請け企業から購入している調達品を値上げしようという意思決定になるでしょうか。むしろ海外サプライヤからの調達を視野に入れるようになるのではないでしょうか。ただ、少なくとも、下請け企業と取引をする際は、これまで以上に適切な価格で調達できるように真摯に対応する必要はあるでしょう。
ところで私は給与の停滞は為替政策が原因と考えていますが、ここでは難しい話はしません。もう一つの観点を指摘します。それは国内外の進出格差です。
たとえば日本企業が中国に進出しようとすると、合弁企業を作れだとか、販売会社との契約の後に政府が承認するといった困難さがつきまといます。それに対して中国企業はどんどん日本に進出してきます。友好国であればせめて同じような条件で進出できる(できない)ことを要求するべきです。新総理には条件の改善を期待します。
と同時に、「下請けいじめ」と言われるのですが、調達側のみなさんは、その下請けが実際に儲かっているのか赤字なのか、決算書を確認できていないのではないでしょうか。サプライヤが提出してくれないためです。現在、日本では会社は決算書を公開することになっていますが、貸借対照表の要旨だけで良いことになっており、さらに罰則もないので非上場企業はほとんどが決算書を公開していません。せめて行政から補助金や助成金を受け取っている会社は決算書を公開するべきでしょう(ということはかなりの会社数に登ると思いますが)。そうすれば調達側も、現状を見ながら下請け企業と交渉できるようになるはずです。
日本の下請け企業は、脱炭素に追随できるかわかりません。さらに何らかの形で下請法の運用がさらに強化されれば、国内外の代替サプライヤを模索する必要もあるかもしれません。岸田総理の今後の政策にも注目しておきましょう。