調達人員はクビにできるのかという真剣な問題(坂口孝則)

コンサルティングの過程で、本題はまったく違う相談を受けます。「調達人材が足りないんです」と。しかし、社員数はむしろ多いように見えます。「ただ仕事を任せられる社員は少ない」と。よくある光景なのでしょう。

この文章を読んでいる読者の大半は大企業に勤務しています。もともと調達・購買部門があるのは大企業が多いですからね。私もこれまで二つの大企業(上場企業)で働いてきました。実際に、一部の例外を除けばクビになった社員はいません。

よくメディアでは「日本の大企業は終身雇用が前提で、企業は自由に解雇することができない」と語られます。しかし冷静に調べれば、米国だけが例外的で、EU各国も解雇規制を立法しています。だから日本だけが例外ではありません。しかしメディアでは「裁判例でも日本は企業に不利だ」とも語られます。

ここには二つの誤解があります。

まず一つ目は大企業の形式的な人材評価です。まわりから役に立たない、と思われている社員であっても形式上は加齢とともに給与が上がっています。おそらく20代から給与が上がらずに40代、50代に突入した社員はいないのではないでしょうか。弁護士と話すと、「形式上は、その社員の能力が上がったと評価しているように見える」とのことです。だから裁判所にしても、「企業は本人を能力が上がっていると評価している」にもかかわらず「能力不足で解雇したい」というのは矛盾していると認定するほかありません。

なお企業もそのへんは理解していて、裁判例を見ると、風紀を乱すとか、協調性がないとか、姿勢や態度が悪いといった理由を解雇事由としています。

そして二つ目です。これは大企業を飛び出すとわかるのですが、メディアでの情報とは真逆で、実際には中小零細企業では解雇が日常茶飯事のように行われています。ドラマのように「お前はクビだ!」と宣言されるのも珍しくありません。各種の労働問題の相談を受ける団体の資料を見ると、年間に数十万件の相談があるようですが、解雇の是非を問う裁判にいたるのは年間で2000件弱もありません。失業の立場で裁判を闘うのは並の精神状態では難しいからでしょう。

さらに裁判で勝っても、現実的には数十万円の手切れ金で解決するケースが大半です。職場に戻る例はほとんどありません。皮肉なことに、解雇は無効であるという訴えを認めてもらっても、現実的には職場復帰できない現状です。なおこれは日系でも外資系でも、日本に法人がある以上は変わりません。ただ現実的には金銭解決しているケースばかりなのに、日本では世論からの反対を恐れて、金銭条件の明確にして立法されることはないでしょう(あくまで私の予想)。

社員の解雇問題の話をまとめます。
・大企業なら困難ではありますが解雇は可能です。ただ態度などの定性的な理由で争われ、両者にとって苦しい闘いとなります。
・中小零細企業では解雇は茶飯事であり、訴えても現実的には金銭的に解決されます。

ところで、たまに調達担当者の方から、転職の相談を受けます。とくに中堅以下の企業を狙っているのであれば、上記のような実態を正直にお話し「あとは覚悟しだい」としか私は語ることができません。中堅以下のほうが自由に仕事ができるいっぽうで、大企業は制約がありますし何よりも場への忖度が必要です。

ここから導かれるアドバイスは平凡です。日ごろから真剣に業務にあたり成果を出すこと。そして、ノウハウを高めて価値の高い人材になることです。そして解雇ではなくても、万が一の際には、違う場所で食っていけること。また調達コンサルタントになる可能性もありますよ。

引き止めたくなるくらいの社員こそが、もっとも必要とされる社員であるのは間違いないのですから。

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