調達人材の給与はなぜ低いのか (坂口孝則)
こんなジョークがあります。
調達「○○万個ほど調達するから、安くしてください」
営業「わかりました。ただ個数が大幅に下がったら見直しを」
調達「約束します」
営業「お願いします」
数カ月後。
営業「まったく注文がないじゃないですか」
調達「○○万個の予定は外れたようです」
営業「値上げしてください」
調達「社内で承認が取れません。無理です」
営業「約束が違います」
調達「約束を守るとは約束していません」
ジョークではありませんね。おそらく似たような会話が日本中で繰り広げられているでしょう。
ところで会社員は入社時に、継続した賃金アップと安定雇用が約束されています。約束は言いすぎかもしれませんが、その前提で就職します。しかし、10年前と比べれば、日本全体で30代から50代までの賃金は下がり続けています(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。さらに会社によっては、雇用も安定化していません。まるで「約束を守るとは約束していません」の状態です。
また各種の調査によると、調達人材の給与は低いままです。会社員全体の給与が低い理由は、マクロ経済的な理由があったり、為替の問題もあるでしょう。しかし、そのなかでも相対的に調達人材の給与はなぜ上がらないのでしょうか。
1.多くの企業では人事評価の際に、調達人材に予算を割いていません。たとえば営業部門ならばSランク社員を5人ほど選定できるが、調達部門からは2人しか選定できない、などです。
その理由は、調達機能が企業経営に与える影響が低いと考えられているためです。良し悪しではなく、事実として会社は必要な部門に予算をかけるためです。また調達出身の役員の絶対数は少ないままです。何よりも社内へのPRが必要でしょう。
2.調達業務がジョブ化していません。誤解があるようですが、ジョブ型とは、期初に上司と社員が面談をして「こういうことをやってほしい」と目標設定するだけではありません。それならどこでもやっています。ジョブ型とは、仕事に値札がつく方法、といった方が近いでしょう。「調達業務のなかで、こういう仕事をこなせたらいくらの給与ですよ」と伝え、年齢や社歴に関係なく仕事に人材を当てはめていく方法です。
たとえば「調達品を発注したり納期催促したりするだけならばいくら」「サプライヤマネジメントや戦略業務までこなせるならいくら」といった感じです。このところ日本でもジョブ型の議論がさかんですが、多くの組織が社員に「あなたはこの仕事をこなせないので、給与はいまのままです」と伝える覚悟があるように私には思えません。
3.野村證券金融経済研究所の所長である許斐潤さんが面白い指摘をしています。ドイツはよく労働生産性が高いといわれる。労働者が稼ぐ付加価値が大きいと。でも、現地に行ったら、ぜんぜんそんなことはなくて、日本人のほうがよく働く。じゃあ、なぜドイツの労働生産性が高いかというと、単にドイツが価格の高い商品を生産しているからだ、と。
多少ドイツが時間をかけて作っても、日本の何倍で商品を売っているのだから問題ない、と。これは面白い指摘と私は感じます。
かなり理想的な話をすれば、日本でも単にサプライヤから安価に調達するだけではなく、調達品を使った完成品を高く売る面に注力する時代なのではないでしょうか。そうすれば結果として、製造原価も低減していきます。
これは以前から開発購買という名称で呼ばれてきました。ただ、開発購買はどちらかというと安価調達品を使用する趣旨で使われてきました。これからは付加価値購買、あるいは感動購買ともいうべき姿勢が大事だと思うのです。