森喜朗さんと調達業務の非常識な関係(坂口孝則)
笑い話があります。
日本の元首相は、クリントン大統領(当時)が来日した際
「How are you?」と訊くべきところを
「Who Are You?」と言ってしまいました。
クリントンさんは機転を利かせて
「I am Hillary’s husband」
(ヒラリーの夫だよ)と答えました。
すると、その元首相は英語がわからず
「Me too」と答えました……とさ。
さて、この元首相は誰でしょうか。話を変えます。
先日、女性の方の興味深い話を聞きました。その方は工場で働いているのですが、部長がやってきて「先日の森喜朗さんの発言についてどう思う」と質問したようです。その女性は「女性蔑視の発言なので傷ついている方も多いと思います」と答えたところ、部長はニヤニヤ笑って「ふうん、あのていどで問題なら何もいえないね」と吐き捨てて立ち去ったとのことです。
たとえば森さんが80代の女性で、「男性が入っている会議は長くなる」と発言したら問題になっていない可能性はあります。さらに居酒屋や会食の場では、「あの程度」の発言はありふれたものかもしれません。
……という議論はあるものの、やはり公的な場での発言としては、やはりNGです。なぜなら私が感覚的にNGと思うから。そして、逆に発言を擁護するのも自由です。ただ同時に私たちは実務家ですから、絶対的に正しかろうが、悪かろうが、企業人として他者に人を動かしたり支援してもらったりせねばなりません。目的を達成するためには、やはり社会の総意に沿う必要があります(もちろん、そのうえで、社会的にどう批判されてもかまわない、というのも自由です)。
以前、外国人の方から聞いて驚いたことがあります。いわく、日本企業のホームページを見ると、社長が女性社員に囲まれた写真がアップされているが、あれは欧米基準でいうと一発でアウトだぞ、と。そういう見方をするのね、と思いました。たぶん、反応が二つにわかれると思います。「それ考えすぎじゃないの」と「なるほどね」の二つです。
ただ事実は、そういう見方をしている外国人がいるのです。ならば、この見方が多数になれば、従うのは当然のことです。
私は、CSR、SDGsもこの観点を忘れてはならないと思っています。ちょっと大げさな話をします。これから調達人材が意識しておくべきは「サプライチェーンから、サプライネットワーク」になる流れではないでしょうか。鎖から、つながりへ。そして、そのつながりは可視化されます。
私は「取引先に失礼な発言をする調達関係者は駆逐されればいい」と考えていましたが、その流れは実現するでしょう。公的な場で、取引先蔑視、買いたたき容認のような発言をしてしまったら、すぐさま広がり、火消しに追われます。鎖ではなく、つながりですので、関係は平等です。そして、国境を超えた取引がもっと盛んになると、取引先は風評リスクを気にするようになります。世界標準で見たときにNGな発言を繰り返していると、不都合が出てくるようになります。
もう一度、繰り返します。「サプライチェーンから、サプライネットワーク」へと移行します。そうすると、アマゾンに並んでいる書籍のように、各取引先からの評価が可視化する時代にすらなるでしょう。「わ、この調達部門は星5だけど、この調達部門は星1だぜ」とか「こんな問題発言ばかりの調達部門と付き合う必要性ある」とかね。
哲学者のジョン・ロールズは「もし自分が不幸な他者に生まれ変わった場合を想像して、他者に優しくしよう」と言いました。だから大半の調達部員には難しくありません。もちろん、厳しい発言をせねばならない場合もあります。
最後に一言。
調達部員は他者と衝突しなければ仕事ができません。
ならば、優しく他者と衝突せよ。