サプライチェーン脱炭素裁判の衝撃!(坂口孝則)
2021年の5月、衝撃的な裁判の判決が下されました。石油大手のロイヤル・ダッチ・シェルに対して、オランダの裁判所は、2030年末までに現行比で45パーセントのCO2排出量を削減するように命じたのです。
裁判所が、ですよ。
そもそもこれは環境団体やNGOが同社に起こした裁判でした。それにしても、どのような理由でCO2削減の訴えが可能なのでしょうか。ここが重要なポイントですが、CO2排出量が多いことが、人権侵害であると訴えていたのです。そして裁判所その主張をは認めました。
私は昨年より「これからのサプライチェーンのテーマは、人権と脱炭素だろう」と語りました。しかし、それは間違いだったようです。温室効果ガスの排出すらも、人権の枠内で語られるようになったからです。CO2等の大量排出は、国民の人権を侵害する。そして企業はサプライチェーンを通じて社会や環境に貢献するわけで、CO2削減は義務だというわけです。
ほんとうにエライ時代になってきました。今年の秋にはEUでデューデリジェンス規制の法案が提出される予定です。これはデューデリジェンス(リスク調査)を企業に課すもので、調達網からの温室効果ガスがいかに気候や人権に影響を及ぼすか開示せねばなりません。
なおオランダで裁判所から温室効果ガスの削減を命令されたケースは以前にもありました。さらに他国で同様の例もあります。ただ今回の判決の驚きは、より明確に気候と人権を結びつけた点にあります。
もっとも日本企業はCSR報告書などで気候変動への対応を開示しています。とはいえ、もはやCO2等の温室効果ガスの排出が、人権侵害という認識まではありません。海外の事例などを参考に、さらに開示範囲を拡大することも検討するべきでしょう。またEU圏でのビジネスを手掛ける場合は、否応なく調査や開示が求められるようになります。
また日本企業が諸外国に製品を輸出しようとすると、炭素排出分だけ国境税を課せられる動きもあります。ビル・ゲイツはさきほど出版した書籍で明確に原発支持を打ち出しています。いっぽうで世界は一斉に自然再生エネルギーに舵を切ろうとしています。日本はどう動くのか。ちなみに、水素の可能性を語る人もいますが、現実には化石燃料を水素に置き換えたものが主流であると知らない人すらいます。
温室効果ガスの測定、脱炭素や代替電力。これらのワードがサプライチェーンや調達を語る際に必要になってきました。とはいえ、世界は最適解を模索しているように見えます。ぜひ世界の潮流をチェックしていきたいものです。