サプライヤ、逆襲するってよ(坂口孝則)

みなさん、想像してください。

建設現場で働く社員と、保育士のカップルがいました。

おそらく多くの人は建設現場を男性、保育士を女性と考えたのではないでしょうか。しかし実際は、建設現場で働くのが女性、保育士が男性です。世の中では「男女平等」「ダイバーシティ」が叫ばれていますが、古い固定観念が根強く生きているようです。と偉そうにいっている私も、この設問を聞いたときに間違えました。

さて、先週、このメールマガジンでテスラの異常な戦略について紹介しました。テスラの戦略は、なんと半導体不足に対応するために19もの制御装置設計を用意し、手に入る半導体に応じて使い分けるというのです。これも固定概念の破壊かもしれません。

納期不足を解消するテスラの異常な方法


(↑念のために前回のメールマガジンの内容を貼り付けます)

ところで、私は、調達業務のコンサルタントです。仕事を紹介すると、「日本では、買い手がサプライヤを買い叩くから、サプライヤが儲からない」といった、苦情のようなコメントをもらう場合があります。しかし、私はこれは固定観念だと思っています。

私の経験では、日本人よりも諸外国、とくにアジア各国のほうがはるかに激しい価格交渉をします。むしろ日本人はおとなしく、相対的に買い叩いている印象がありません。多くの調達関係者は私の印象に賛同してくれるのではないでしょうか。

しかし面白いことに、アジア各国はサプライヤからの値上げ交渉などにはさほど抵抗しません。代わりに、サプライヤを切り替えるのにも躊躇しません。日本は値上げ交渉が(市況がたしかに高騰していても)なかなか決着しません。代わりに、サプライヤとは長い期間をつきあいます。いくつかの学術研究を読んでも、日本企業はサプライヤをなかなか切りません。

日本では社員がなかなか辞めないことを指して「人材の流動性が低い」といいます。しかし私から言わせると、「取引先企業の流動性」こそが低いのです。取引の場で調達人員がサプライヤへ「長い目で見てくれ」「長期的に稼いでくれ」というのは、その証左でしょう。サプライヤ評価では、サプライヤをA(良い)からD(悪い)まで採点します。ただ採点するのは良いし、サプライヤ評価をはじめる前は「Aランクサプライヤから調達を推進しよう」と合意するのですが、現実的にはなかなかDランクサプライヤが切られることはありません。

もっとも長期的な付き合いに悪い側面ばかりではなく、納期面や価格の安定性、すりあわせなどには適しているともいえます。

しかし、これも固定観念なのかもしれません。安定した量を発注する時代であればプラスの面が大きかったところ、混乱の時代には、そのプラスの面が崩れる可能性があります。

例の一つ目は原材料メーカーや鋼材メーカーです。これまで自動車メーカーや電機メーカー等は、原材料メーカーや鋼材メーカーと価格交渉で激しいやりとりはしても、争いごとに発展するケースは稀でした。一部の調達企業は、原材料価格が決まる前に出荷して、出荷後に価格を落ち着かせるのが一般的だったほどです。しかし受給の関係で完全に風向きが変わっています。価格アップなしには交渉すら成立しません。さらに、サプライヤは、価格決定後でなければ出荷しない(ある意味では当然なのですが)と姿勢を変化させています。

例の二つ目は半導体メーカーです。外資系を中心とし、おなじく、値上げが相次いでいます。それまで、調達企業はティア1サプライヤへアッセンブリを注文し、そのティア1サプライヤが半導体メーカーと交渉するのが通例でした。しかし、いまでは調達企業が半導体メーカーと直接の交渉を行っています。これまではなんとか納品してくれた半導体メーカーも、納品切れが相次いでいます。方法としては、サプライヤの流動化を試みるテスラの方法でしょうが、日本企業では実現する可能性は低いでしょう。

さきほど「取引先企業の流動性」の話をしました。おそらく同時に必要となるのは、調達部門への評価の多様性(流動性)でしょう。どの局面でもコストを注視するべきなのか、むしろ何倍を払っても納期や在庫を積み増したり、テスラのように代品採用に資金をつっこんだりするべきではないか。激変の時代には、固定観念の破壊こそが重要です。

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