サプライヤからの値上げに対抗する方法(坂口孝則)
以前、ある経営者が相談を受けていました。内容は「ウチの娘が悪い男ばかりを好きになっています。どうすればいいでしょうか」。この回答が傑作でした。「悪い男を好きにならないように育てるしかありません」。爆笑しました。ミもフタもない回答だったからです。真実かもしれませんが、いまさらどうしようもないからです。
違う経営者の話です。この人は、ベンチャーを起業し莫大な富を稼いだ人です。この人も相談を受けていました。「金持ちになるにはどうすればいいですか」。回答は「他人と違ったことをするしかない。なぜならば、商品を販売するときに、他社と比較検討されるものは利益を稼げないからだ」と明確に答えていました。
さて、話を調達業務に移します。このところ、「サプライヤから値上げ申請が続いている。どうするべきか」とご相談をいただきます。その多くは、サプライヤが独占状態にあり、他への切り替えができないようです。もし、前述の経営者のように答えるのだとしたら「そもそも複数社から買える状態にしておかねばなりません」となるでしょうか。あるいは「他社と比較検討できるようにしなければ、必然的に価格は上がるはずです」といった回答になるでしょうか。または「そのサプライヤが倒産したら、どこからも調達できないので御社も倒産するのでしょうか」と逆質問するものよいかもしれません。
ただ、理屈で考えれば、対策は二つしかありません。「条件や手法を変えて交渉する」か「複数社から調達できるようにする」です。前者は次の通りです。
「条件や手法を変えて交渉する」
・交渉する主体を上位者に切り替える
・調達数量を増やす、発注時期を変える
・他の案件とセットに交渉する
・コスト分析をして妥当な価格を模索する
・値上げや値下げのルールを設定する
最後のルールとは、日銀が出している時系列データ検索サイトなどの市況価格と連動するようにサプライヤと相談するものです。しかし、「市況がどうであろうが、値上げしてくれなければ納品しない」と脅してくるサプライヤもいるでしょう。その場合は、見積書の有効期限を確認しましょう。また、基本契約書に価格などの変動事項については一方的ではなく、両社が真摯に討議する旨が書かれているでしょうから、丁寧に申し入れを繰り返すしかありません。
「複数社から調達できるようにする」
・なぜ複数社から調達できていないか分析する
これに尽きます。その理由は下記のとおりです。
・要求スペックが特殊である
・特定サプライヤしか社内品質基準を満たせない
・生産キャパの問題
・サプライヤ切り替えコストが高い
・特定の認可を受けているサプライヤが一社のみ
・特定拠点に納品できない
・しがらみ
上記を解消しなければ、きっと交渉で厳しい立場であり続けるでしょう。逆にいえば、まったく解消できない問題ではありません(それこそ「そのサプライヤが倒産したら、どこからも調達できないので御社も倒産するのでしょうか」ということになります)。逆に、その解消コストを支払わない代わりに、サプライヤが値上げしてくるリスクを負っているといえます。
できれば各調達部員の方は、なぜサプライヤが寡占状態にあるのか、その理由を探ってください。そして、その理由を解消するつもりはあるのか自問してみましょう。
また同時に考えていただきたいのは、サプライヤに特殊なスペックを要求しているとき、それを使った完成商品も特殊であるはずです。特殊ではなく、平凡な商品にしかならないのであればおかしい。ということは、自社商品も値上げできているはずではないでしょうか。これからは営業側と調達側で連携をしたうえで対応しなければならない、と私は思うのです。だって特殊品を使った商品が凡庸ならば、そもそも特殊品を使わないでいいじゃないですか。
同じことをやっていたら、同じような結果が待っています。問題解決も、これまでと違った角度から取り組んでいきたいものです。