警告「SDGsの調達で見落とされていること」(坂口孝則)
数年前、私がカンボジアに行ったときのことです。この国には全世界から支援の名目で古着が送られてきます。先進国ではリサイクルで古着が回収されるものの、その多くは先進国内で循環できません。そもそも新品の衣類であってすら半分くらいは売れ残るのです。古着の需要はじゅうぶんではありません。
そこでカンボジアに送られるのですが、そこで見た現実は、現地で縫製産業やアパレル企業が壊滅的な状態になっていることでした。海外からタダ同然の衣類が送られてくるのです。多くの国民は自国産業の衣類を買おうとはしません。
この衣類の提供は先進国にとってみれば、SDGsだとか支援だとか援助の名目で行われています。しかしそれは援助先の国の産業を破滅させる方向に寄与しているのです。これからただちにSDGsが欺瞞だとか主張したいわけではありません。ただ、世間で言われている美談には裏もあると認識したいだけです。
同様のことはアフリカでも起きています。アフリカにも衣類が世界中から殺到。そして、アフリカでは衣類が一つ6円で販売されています。こうなると現地のアパレル産業はまともなサプライチェーンが構築できません。やるだけ損だからです。
話を変えるようですが、米国のドットフランク法をご存知でしょうか。これは世界中にある紛争鉱物の調達を禁じたものです。とくにコンゴ民主共和国では、鉱物の採掘に児童が大量に強制労働されているとされており、さらにテロ資金の源になっています。だから米国の上場企業は、該当地域での調達をしていないか厳しいチェックを受けます。ただ、少し前の調査では、鉱物の原産地を特定できた米国企業はたったの56%しかありません。
さらに該当地域からの調達をやめると、児童たちはさらに貧困に追い込まれる矛盾を解決できてはいません。
どうすればいいのでしょうか。この短文で状況改善の施策までを述べるのはやや重荷です。ただ、私たちはお題目を語るだけではなく、その背後の背景にもそっと思いを馳せる真摯さが必要でしょう。私は、このコラムで何度も脱炭素の矛盾や、脱炭素自体が政治に弄ばれている状況を描いてきました。これまでEUは天然ガスも原発もダメだといっていたのに、突然に手のひらを返した状況からもそれは明らかです。
私たち調達部員が解決すべきは、建前の目標達成ではなく、真に倫理的なサプライチェーンの構築であるはずです。その青臭い目的を忘れず、世界にほんとうに役立つ施策を考えたいと思います。そのために、私たちは発信したいと思います。