サプライヤの言いなりになってみませんか?(牧野直哉)

昨年来、多くの調達購買部門を苦しめ続ける半導体不足。先日行われたAppleの7月-9月期決算の発表でCEOであるティムクックの発言に驚かされました。

 

「7月-9月の3か月間で販売機会逸失額が日本円で6,800億円にも及び、多くの不確実な影響に左右され今後正常化する時期を見通すのが難しい。販売機会を失った要因は半導体不足であり、製品の心臓部を担う自社設計の半導体は十分な量を確保しているものの、汎用品が他社と競合している関係で十分な量が確保できない」とコメントされていました。

 

Appleは現在世界で最も購買力の強い会社でしょう。そんな会社のCEOにこんな発言をされたら、半導体不足にさいなまれている多くのバイヤーのみなさんは果たしてどんな取り組みをすれば良いのでしょう。多額の調達額を背景にした「購買力」がモノの調達に影響力を及ぼさないほどの半導体不足。これまでの納期遅延への対処法では全く歯が立ちません。だからといって販売機会が失われる事態をそのまま見過ごすわけにはいきません。

 

半導体に限らず需要超過によって供給量が制限される場合、調達購買部門の大きな問題は、社内関連部門への発言力の減退です。供給能力が限られれば、より自社売り上げや利益に最も貢献する調達プランの立案が必要です。調達・購買部門の発言力減退は社内関連部門の語気を強め、社内調整を難しくします。売上や利益の最大化へむけた建設的な調整ができない、これこそが最大の問題点です。

 

従来型の納期遅延対応は、粘り強いサプライヤフォローでした。サプライヤを訪問して納入実現まで帰らない、切迫度によっては居座るといった、極めてシンプルな事後対応が最も効果的であると考えられてきました。今回の半導体不足に旧態依然とした対応は効果を生みません。問題発生時のセオリーの通り、現状を正しく理解して、解消すべき問題の優先順位を明確にして一つ一つ取り組みが必要です。

 

現在一生懸命納期フォローを行っているバイヤーのみなさんには言いづらい話ですみません。現在直面している半導体不足は、もう解決しないと考えるべきです。半導体不足解消に半導体メーカーだけではなく、国家レベルで半導体の生産能力を拡大する設備投資、予算的なサポートが計画されています。しかし半導体生産に必要な設備の多くは、調達リードタイムは1年以上であるものが大半です。私が懇意にしている。半導体メーカーの調達部門責任者は今、 2022年度~2023年度に導入予定の設備について予定通り調達すべく奔走しています。したがって今どれほど設備投資の話が盛り上がったとしても、そしてどれほど札束を積み上げようと、即効性のある供給能力拡大はできません。特に汎用的な製品を調達している場合、現在の「取り合い」の状況は早急には解決されず、今後更なる悪化を想定した上での調達計画立案が必要です。

 

半導体不足を引き起こしている大きな要因の1つは、半導体の主要先である製品のライフサイクルと半導体そのもののライフサイクルの「期間」が大きく異なる点です。半導体は「ムーアの法則」に従って集積度を指数関数的に増大させてきました。集積度を高めるための「微細化」の進展スピードも、近年はスローダウンしつつあると言われています。しかし半導体メーカーの事業継続には、競合他社より集積度を高めた高機能製品を一刻も早く発売し、同時に一刻も早く製品化投資を回収して次なる製品開発の投資に振り向けなければなりません。半導体メーカーと半導体を使用するメーカーのサイクルスピードが合わなくなってくるのです。

 

多くの バイヤー企業は、自社の製品サイクルを優先し半導体メーカーに対して生産延長や在庫確保を申し入れてきました。そういった調達・購買部門の対応こそ、日本の半導体メーカーの競争量を奪ってきました。現在多くの半導体メーカーでは、自分たちの発展を阻害する顧客要求に応えない、そう対応方針を設定していると考えるべきなのです。

 

例えば、半導体メーカーから生産中止(ディスコン)の情報がもたらされたとしましょう。自社に搭載される製品が引き続き生産する見通しなら、生産中止の撤回を申し入れたケースもあるでしょう。生産延長がかなわなければ、自社製品のライフサイクルに必要な数量の生産を申し入れるはずです。今後半導体供給を安定させたいなら、半導体メーカーの意志決定を尊重し、円滑な事業運営を妨げる自社の要求は慎みましょう。積極的に半導体メーカーの要請を受け入れ、新たな半導体で自社製品の供給を継続させるためのアクションを社内に要請する。いうなれば半導体メーカーの「言いなり」になって供給の安定を求める。同時に社内関連部門には、製品変更への早急な対応を要請します。調達・購買部門は、サプライヤだけではなく、社内関連部門を含めた総力で半導体不足を乗り越える司令塔機能が必要です。従来は、社内関連部門の依頼には言いなりに、サプライヤには厳しい要求を行っていたはずです。そんな構図で半導体不足は乗り切れない。まったく逆である「サプライヤの言いなりになる」こそ、事態打開の鍵になるのです。

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