Wの高齢化による納期遅延リスク(牧野直哉)

同じ業種に納入される部品でも、ある企業では納期遅延が解消され、同じ時期に別の企業では新たな生産調整が始まる。それほどに今、各企業が直面する納期遅延問題は、なかなか一筋縄ではいかない複雑な対応を強いられています。さまざまな納期遅延リスクを最少化させるためにも、今こそ取引先管理手法であるサプライヤ評価の対象範囲を拡大すべきタイミングです。

 

多くの企業でサプライヤ評価の目的は、サプライヤの信用状況に主眼が置かれていました。確かにサプライヤの事業継続性は、バイヤ企業にも大きな影響を与えます。信用面でのサプライヤ調査は引き続き行う必要があるでしょう。しかし近年企業の倒産発生件数は低い水準で推移しています。信用面よりも、サプライヤの他のリソースに対するチェックが及んでいるかどうかがポイントです。

 

企業におけるリソースには、大きくヒト、モノ、カネ、情報が挙げられます。サプライヤに対する信用調査は「カネ」に対する確認です。今後生じる可能性のある納期遅延対策の観点では「カネ」だけではなく「ヒト」や「モノ」への確認が欠かせません。納期遅延の発生原因は様々な要因が存在するためです。

 

例えば「ヒト」について。機械化による自動化が進んでいても、全く無人でモノ作りができるわけではありません。「ヒト」による管理は欠かせないし、「ヒト」によるモノ作りに頼る業種はまだまだ多く存在しますね。日本は高齢化が進み、若年層の人手不足は厳しさを増しています。こういった環境の中では、サプライヤが新たな人材の採用活動を自らが行っているかどうかが、事業継続性に大きな影響を与える要因です。確かにいわゆる中小企業にとっては新たな人材の採用は厳しい環境にあります。新たな人材の採用に挑戦しているか、難しいからといって諦めてしまっているか。この2つのどちらを選択しているかによって、中長期的な供給の確実性が変わってきます。

 

続いて「モノ」について。2018年度に発表された中小企業白書では、中小企業の設備の老朽化が大企業に比べて進んでいる実態が明らかにされました。確かにサプライヤを訪問すると、老朽化した機械でも丹念に手入れをしながら大事に使っている例が多いですね。しかし老朽化した設備はメンテナンス部品の供給が行われず、一度故障してしまうと簡単には修理できない状況が発生してしまいます。

 

現在問題になっている納期遅延は、供給能力よりも需要が大きく上回っているために発生しています。サプライヤを個別にチェックしてみると、作業員が高齢化していたり、老朽化した設備を大事に使っていたりといった潜在的な納期遅延要因をもつ企業は多数存在するはず。あえてハッキリと申し上げれば、簡単には解消しない半導体不足に対処するだけでは不十分です。バイヤ認識の中で不足するはずがない、納期遅延がないと思っていた業種や製品が問題です。ヒトと設備の「Wの高齢化」によって、納期遅延やサプライチェーン断絶するリスクが存在します。半導体不足が解消された後は、サプライヤごと、個別に発生するサプライチェーン断絶リスク解消が重要になります。円滑な事業活動の実現に欠かせない取り組みになっているはずです。今やサプライヤ評価実践は、「カネ」である信用調査だけでは不十分です。サプライヤの「ヒト」「モノ」に継続性があるかどうか。新たな問題を顕在化させないために今、確認検証が必要なのです。

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