「沈黙は銀、雄弁は金」な時代の中で(牧野直哉)

私が就職活動をしていた頃、まことしやかにこんな話が噂されていました。あるビール会社で内定を勝ち取った学生のエピソードです。面接官があれやこれやと質問をしても学生はずっと沈黙。ずーっと黙っていた学生が最後に一言「男は黙ってXxXXビール」とだけ発言。かつて使われていたCMのコピーをそのまま発言したのでした。面接官は大ウケし見事内定を勝ち取った!そんな話です。

本当に内定を勝ち取ったかどうか、真偽は定かでありません。本来であればなぜ就職したいのかを雄弁に語らなければいけない場で、つべこべ言わずに黙って入りたい意思だけをストレートに短く示したエピソード。日本社会において「沈黙は金」「言わぬが花」「口は災いの元」といった「沈黙」を賛美する言葉が多いのは事実。だからといって今日、何でもかんでも黙っていればいいわけではありません。

昨今「ビジネスと人権」といったテーマがマスコミで語られる時代になりました。人権が損なわれるもっとも悲惨な例として「奴隷労働」といった言葉が登場します。少し古いデータに「Global Slavery Index(世界奴隷指標)2018(https://www.globalslaveryindex.org/)」があります。日本は現代奴隷の広がりに関し、調査した167カ国中、167位。もっとも広がっていない国と評価されています。日本企業で「奴隷労働」的な扱いが少ないことを示しています。

この調査結果は多くの日本人の認識と同じであるはずです。

「そもそも奴隷労働が日本で起こっているわけない」

「だから「ビジネスと人権」と言われてもピンとこないんだよね」

これが多くのビジネスパーソンの共通認識でしょう。しかし「Global Slavery Index(世界奴隷指標)2018」で「外国人労働者技能実習制度は」奴隷労働と見なされるといった指摘を受けています。当たり前と思っていた状況が崩壊しかかっているのかもしれません。私たちの共通認識である「奴隷労働などない」を守るにはどうすればよいでしょうか。

それは積極的な発信です。

「労働者の人権を守る事は当たり前だと思っている」

「実際の労働環境や労働条件も労働者の人権に配慮している」

とアピールが必要なのです。そもそも人権とは長い歴史の中で一般市民が勝ち取ってきたもの。決して「当たり前」ではありません。勝ち取ってきたものは維持するために具体的な努力が必要です。だからこそ沈黙せず積極的な発信がかかせないのです。調達・購買の現場では、積極的な発信に必要なエビデンスの収集がかかせないのです。

もう一つ、経済のグローバル化によって様々なモノやサービスが、海外のリソースを活用して提供される時代になっています。日本国内で人権問題はないかもしれません。しかしサプライチェーンをたどっていけば、海外のどこかでは労働上の人権侵害が発生しているかもしれない。そんな可能性を含めて考えなければいけない時代になっているのです。

持続可能な調達にまつわる人権問題では「沈黙は銀、雄弁は金」であることを肝に銘じる必要があるのです。

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