「世間」を拡げて考えてみる(牧野直哉)

「CSR調達」や「持続可能な調達」が今、調達・購買部門の大きなテーマになっています。取り組みを検討するために情報収集していると、日本にはかねて「CSR調達」や「持続可能な調達」に合致する考え方があり、実践してきたといった情報を目にします。もっとも有名な考え方は近江商人の「三方よし」でしょう。

「三方よし」とは、売り手と買い手に加えて「世間」にも配慮する考えです。商人として成功を目指すとき、同じ地域の出身者との絆を強く意識し相互扶助を行いつつ、社会への責任や貢献を強く実践。進出した各地域の社会と良好な関係を築いていました。現代でも通用する「CSR調達」や「持続可能な調達」の起源といえる考え方です。

しかし従来の考えだけでは今日的な「CSR調達」や「持続可能な調達」に対処できません。近江商人のサプライチェーンは、実際に足を運んだ地域の商売が前提です。リアルに身を置いた地域社会を「世間」として捉え、責任や貢献の実践していました。しかしこの「リアルさ」が現在のサプライチェーンと大きく異なる点です。

いま「CSR調達」や「持続可能な調達」は、実際行ったことがない、見たこともない場所を「世間」として捉える必要があります。2010年7月にアメリカで成立した紛争鉱物規制(SOX法)。コンゴ民主共和国および周辺9か国から輸出された3TG(スズ、タンタル、タングステン、金)の自社製品への使用有無の調査と、米国証券取引委員会(SEC)への報告を、米国企業と取引している海外企業を含めて義務づけています。

報道を注意深くチェックしていれば、コンゴ民主共和国やその周辺国の3TG採掘現場で、児童や女性に対して不当な対応が行われている現実を目の当たりにします。 2018年にはコンゴ民主共和国の産婦人科医であり、内戦による戦乱によりレイプ被害にあった3万人の女性を治療し、その精神的ケアにも当たっているデニ・ムクウェゲ氏にノーベル平和賞が授与されました。私たちが日常的に使っているスマホの構成部品には、こういった悲劇が日常である地域で産出された原料が使われているのです。

コンゴ民主共和国は、外務省から全域が「不要不急の渡航中止」、 一部の地域は「退避勧告」が発令されています。多くの日本人にとって「なじみのある国・国地域」とは言えません。しかしスマートフォンに代表される我々が日常的に活用する「電子機器の構成部品の原材料」には、採掘された鉱物資源が確実に使用されています。ふだん目にする機会が少なく、ゆえに意識することも少ないコンゴ民主共和国の実情を、日常生活と関連する「世間」として考えられるかどうか。言うなればサプライチェーンのグローバル化とは、近江商人が全国を歩いて実践していた「三方よし」の息吹を、行ったこともなければ見たこともないけど、サプライチェーンでは確実につながっている地域を「世間」として捉え、何か解決すべき問題があれば対処する。課題を解決する取り組みが必要なのです。

日本では鉱物資源はもちろん、大量の食品も海外から輸入しています。私たちの日常生活を支えるサプライチェーンは全世界に広がっています。したがって我々が意識している「世間」も、地域社会や日本国内といった前提から対象の国や地域を具体的に拡げて捉え考えることが今、求められているのです。

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