パナソニック巨額買収が評価されなかった理由(牧野直哉)

●過去最大の買収に市場からの厳しい評価

昨年4月、パナソニックは20%出資していた米国ソフトウェア大手ブルーヨンダーホールディングの買収に意したと発表しました。買収金額は当時の為替レートで約7800億円(71億ドル)で、パナソニックでは過去最大の買収です。
「ブルーヨンダー(BlueYonder)」と聞いてどんな会社?と考える方も多いでしょう。過去に同社が買収した映画製作会社のMCAとは異なり、ブルーヨンダーの事業内容がわかりづらかったからでしょうか。買収報道によって株価が一時4.9%下落しました。
ブルーヨンダーはサプライチェーン分野で人工知能(AI)を活用し、製品の需要や早期を管理するソフト開発を行っています。世界最大の小売店であるウォルマートを始め、世界に3000社以上の顧客をもちます。冷静に確認すればサプライチェーン管理の分野で実績ある企業買収であり、積極的なプラス評価は展開次第ではあるものの、瞬間風速でもマイナス評価を受けたのはなぜなのでしょうか。

●厳しい評価は日本におけるサプライチェーンへの理解が浮き彫り

 株価が下落した理由は、シンプルに「ブルーヨンダーってなに?どんな会社?」がよくわからない投資家が多かったから、と想定しています。日常的に調達・購買業務をサポートしていると、ブルーヨンダーの業務対象である物流管理や在庫管理といった分野への関心の低さに驚かされます。不足事態を回避するために膨大な在庫を抱える企業。計画がない、あるいは不正確な計画により物流計画の直前変更が常態化。市場のトラック不足の煽りをもろに受け、顧客への納入や自社の生産に影響をおよぼしてしまう企業の多い現実が、関心の低さを示しています。関心が低いが故に、よくわからない、だからブルーヨンダーを買収してどうするつもりなの?が市場株価に表れたのです。

●パナソニックとブルーヨンダーのシナジー(相乗効果)

巨額買収の当事者であるパナソニックとブルーヨンダーの思惑は、大きく三つあります。一つ目は、パナソニックのハードとブルーヨンダーのソフトの融合による事業展開です。パナソニックはセンシングやIoT、エッジデバイス、ロボティクスといったハードに強みがあります。ブルーヨンダーは、サプライチェーン領域に特化し、エンドトゥーエンドでソリューションを提供できるITベンダーである点。この二つが今後の事業成長の補完関係となります。二つ目は、ブルーヨンダーの主要顧客が米国である点。アジアの展開を考えるとき、パナソニックはパートナーとして良い相棒になりえる存在であったこと。最後にブルーヨンダーが、日本企業の「現場主義」に理解を示している点。現場から様々な情報をクラウドに取り込んだ上で、リアルタイムにフィードバックを行ってサプライチェーンを志向しています。この3点は、日本企業における長年手がつけられなかったラストフロンティアへの具体策を示しています。

●企業レベルではなくサプライチェーンレベルでの実態掌握と意志決定サポート

パナソニックとブルーヨンダーが繰り出すソリューションは、調達・購買部門が直面する課題解決にも大きな可能性を秘めています。例えば、サプライチェーン断絶による供給停止の回避を想定してみます。社内だけではなくサプライヤを含めた生産能力、想定生産量と、需要動向を一元管理して、従来よりも早期に発注量増減の意志決定が可能です。

またサプライチェーンを視野にした脱炭素の取り組みにも、物流やサプライヤまで含めたScope3レベルの二酸化炭素排出量の把握に活用が見込めます。サプライチェーン全体の生産能力や生産量、需要量を一気通貫で確認可能にする基盤が構築できれば、様々な問題に対処の可能性をもつのです。

●サプライチェーンで企業同士のつながりを綿密に

調達・購買部門で取り組むサプライヤマネジメントの分野を考えてみます。バイヤとサプライヤの営業パーソンの関係に、人間関係の信頼関係に加えて、確かなデータを共有した上での両者共通認識としての意志決定が可能になります。人と人との属人的な関係を基盤としつつ、データを加えて、腹の探り合いに時間やコストを割かない、効率的な取り組みがバイヤ企業とサプライヤが共同して実現可能になるのです。こういった取り組みを「サプライチェーンにおける企業どうしのつながりを綿密に」と言ってしまうと、これまでと何が異なるのかとなってしまいます。ブルーヨンダーのソリューションを媒介にしてより企業の枠を超えた情報交換ができれば、より効率的な調達・購買業務の実現が可能になるのです。

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