1社購買が複数社購買か?(牧野直哉)

多くのバイヤが今、直面している課題です。

御質問:コンプライアンスや人権で問題のありそうなサプライヤが1社購買の場合、簡単には代替えできそうもありません。基本的には複数社購買で、1社購買をできるだけ排除し、問題あるサプライヤへの発注を回避すべきでしょうか。

回答:問題あるサプライヤの発注は、必ず回避すべきです。その前提に基づいて、この質問にはいくつかの調達・購買部門とバイヤの直面する問題が複合的に絡み合っています。それぞれの問題に対して対処が必要だと考えます。

1つ目は、サプライヤに何らかのコンプライアンス問題、従業員に対する人権にまつわる問題の発覚です。人権問題も含めてコンプライアンス(法令順守)に何らかの疑いが生じたわけですから、すぐに相応のアクションが必要です。

まず、本当にコンプライアンスが失われているのかどうかについて、

①疑問の払拭が行われない場合、取り引き関係の解消もあり得ると説明

②その上で突っ込んだ事実確認を共同して実践

③疑念と問題点の払拭を強く依頼

この順番で実践します。想定するリスクをふまえた「順番」が大事です。

こういった事象の最大のリスクは、バイヤ企業としてサプライヤのコンプライアンスが失われた状態。あるいはその可能性を掌握していたにもかかわらず、取り引き関係を継続していたと、当事者以外の企業や消費者から認識されてしまう点です。問題のあったサプライヤとバイヤ企業が同一視されてしまいます。ISO20400の「持続可能な調達」に記載されている「暗黙の加担」です。先ほど①~③の順に、簡単に対応ステップを説明しました。第三者へ事実が露見した場合を想定した対処です。問題のあるサプライヤへの事実関係の確認、改善の実践とバイヤ企業からのサポートを行うにしても、疑念のあるサプライヤと立場の違いの明確化が必要です。

「完全に代替えできそうもありません」とありました。事実関係を掌握している故に、取り引き関係を継続している状態がもっとも高リスクです。改善・是正をサプライヤに強く求めている事実がなければ、コンプライアンス問題を抱えるサプライヤを是認し、同一視されてしまいます。そういった事態は回避が必要です。

2つ目は、現在多くの先進的な取り組みを実践する企業での取り組みです。問題あるサプライヤの存在が発覚してしまった場合、最終的な処置の1つに「取り引き停止」を設定しています。したがって、取り引き停止が行われた場合を想定。バイヤ企業の事業運営がつつがなく行われるサプライヤ管理を行う必要があります。「複数社購買」は実現性の高い取り組みと言えるでしょう。複数社に問題のあるバイヤへの発注量を他のサプライヤで対応できるかどうかの確認が欠かせません。取引停止事態に対し、複数社購買による別サプライヤへ代替え生産を解決手段とする場合を具体的に想定して実現性を検証します。それぞれの発注量が、それぞれから代替え購入可能かどうかについて確認する。同時に、サプライヤへ想定自体を説明して協力を得てください。

コンプライアンスや従業員の人権にまつわる問題は、いまや企業規模や業種を超えて全産業的に対応しなければならない課題です。したがって1社購買状態であれば、サプライヤに対してコンプライアンスや従業員の人権の担保を強く申し入れ、取り引きに問題のない状態の維持を継続的にチェックすることでリスク回避も可能と考えます。

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