仕事を減らしてくれ?!(牧野直哉)
悩めるバイヤからの御相談です。
御質問:取引先から「発注量を減らしてほしい」と相談されました。正直「逆だろ?」的な要求に驚いています。どう対処すべきでしょうか?
回答:とても今日的な御質問、ありがとうございます。
このような依頼内容は、バイヤには「真逆」と映るのも無理ありません。本来どんな企業でも営業とは売上拡大を目指しますからね。そんな中で「発注を減らしてほしい」と言わざるを得ない理由は何でしょうか?大きく2つのケースを想定します。
前提条件として、自社能力に対して過大な受注量を抱え、品質や納期、コスト面でも従来なみの成果実現ができない事態が想定されます。例えば全産業的に大きな問題となっている人手不足。加えて時間外労働の上限規制は2020年4月から中小企業を含めて遵守が必要です。需要変動のピークを残業時間で対処するにも難しくなっているのです。
想定対応1つめのケース。発注時の契約条件が守れないので、守れるレベルの受注量に落としたい場合です。サプライヤとして顧客に迷惑をかけ、損害発生させかねない事態を回避するために、断腸の思いを胸に申し出ているケース。バイヤの期待を裏切る対応かもしれません。しかし、仕事量増加の対応は難しく、納期や品質で顧客要求に応えられない事態を想定しての対処は正しい経営判断です。
どうして発注量に対応できなくなったのか、「理由」をしっかり確認します。同時に今後の仕事に対する意向を聴取します。取り引き関係を継続したいのかどうか。継続したい意向が確認できたら、事業運営に必要な2大リソースのうち、人が不足しているのか、それともモノが不足しているのか。それぞれに何らかの打ち手を下しているのかどうかを確認します。確認した結果、打開策をもち、実行が確認できれば、取り引き継続を前提にサプライヤの要求に応じます。
想定対応2つめのケースは、経営者が経営意欲を失って、事業継続が危ぶまれる事態に陥っているケースです。人手不足は厳しさを増し、これからより一層新規採用は困難となるでしょう。モノは最近の報道を見ると「不足」か「値上げ」の記事を多く目にします。企業経営は今、まさに四面楚歌です。そんな中で、いきなり休廃業は言い出せず、発注量の減少を申し出るケースは容易に想像できますね。
2つめのケースでも、1つめのケースで行ったサプライヤの現状掌握は必ず行います。その上で新たなサプライヤ探索を行います。類似発注品で複数のサプライヤと取り引きを行っているなら、申し出のあったサプライヤからの仕事を分担して割り振ってみましょう。従来とは異なる新たなサプライヤとの取り引き模索が必要です。
企業経営について今「四面楚歌」であると書きました。しかし人が全くゼロになっているわけではありません。モノの流通はすべての需要量が満たせないだけで、流通は行われています。厳しい経営環境の中でも、なんとか凌ぎながら事業を継続している企業が、知らない企業の中にあるかもしれません。一方、経営意欲のある企業人が、難局をどのように乗り切っていくのか。従来「仕事量を減らしてほしい」といった申し出は「けしからん!」と一喝していたかもしれません。しかしこれまでには想定できなかった問題が噴出する今、サプライヤの直面する問題について、申し出の背景を聞くことが今こそ重要です。
私の友人は、サプライヤで不足する作業者情報を、複数の人材派遣会社に連絡し、サプライヤの人材確保をサポートしているそうです。笑いながら「作業者レベルと時給にはずいぶんと詳しくなりました」と語ってくれました。ずいぶんと管理者の業務内容も変化し、多岐にわたっているなと思わせてくれたエピソードでした。継続するために従来とは異なる対応が求められているのです。