「どちらか」ではなく「どっちも」が正しい(牧野直哉)
今回も悩めるバイヤからの御相談です。
御質問:CSR調達や持続可能な調達といった取り組みについて悩んでいます。必要性は理解できます。忙しいバイヤが、調達・購買業務と、CSR調達や持続可能な調達に費やす時間を、どのように分配して対応すべきか悩んでいるのです。
回答:CSR調達といった言葉がこの世に登場してから20年余りが経過しています。近年、サプライヤ労働者の人権や、サプライチェーン全体の脱炭素化といったテーマも登場しました。価格面だけでなく納期や物量確保にも困難な状況が続く中、確かに「CSR調達や持続可能な調達」へどこまで時間を費やすべきか悩んでいる方も多いでしょう。
結論としてサプライヤのQCDにまつわる従来の問題と、「CSR調達や持続可能な調達」を分けて、どっちかを選択するといった考え方は間違っています。「統合報告書」ってご存じですか?業績報告書とCSR報告書が別々に作成・発表されていたものを「合わせた」内容です。同じ文脈で使われるキーワードに「SDGs(持続可能な開発目標)」があります。言葉通り、事業活動に必要な要素を全て持続可能にするための取り組みです。
企業における業績拡大の取り組みと、従業員の人権や地球環境への取り組みは別物ではなく、どちらかを犠牲にして行うべきものでもありません。事業戦略を立案する場合は、従業員の人権や地球環境への取り組みといった点も含めて検討して具体案を実行する必要があるのです。「どちらか」でなく「どっちも」が正しいのです。こういった考えは、建て前論に止まらない傾向が年々強まっている現実を実感しています。
調達・購買部門の現実として、人手は減るばかり、サプライヤ管理は項目ばかり増えて、時間がいくらあっても足りない状況ですね。そんな中で、従来なかった従業員の人権や地球環境への取り組みをどのように実現させていくのでしょうか。一般的な戦略検討や計画立案、実行計画策定と何らかわりません。あるべき姿を設定して、現状を確認し、あるべき姿と現状のギャップ解消の方策を着々と実行します。
2017年にガイダンス規格としてISO20400(持続可能な調達)が発表されました。ガイダンスと言っても「規格」です。内容的は持続可能性についてあれもそれもどれもこれもといった内容。注目すべきは行うべき内容について優先順位を設定し、着実な実行を促している点です。調達・購買部門の置かれた実状をふまえた内容だと思っています。
困った事態は、何をすればいいかわからないから何もしていない状態です。現状をしっかり掌握して、どんな取り組みが必要なのかを決める。御相談いただいた「バイヤの多忙さ」も、CSR調達や持続可能な調達、SDGsのテーマ化が可能です。調達・購買部門のバイヤたちが多忙さで疲弊してしまえば、事業継続性が問題化。サプライヤ管理が不十分になれば、サプライチェーンの断絶で、事業継続性が失われます。
バイヤの業務負荷を下げる目的で、管理対象を減らす「サプライヤ集約」「集中購買」といった取り組みも、多くの調達・購買部門で取り組むべきテーマです。「サプライヤ集約」「集中購買」は、調達・購買部門にとって長年にわたって取り組んできたテーマですね。今日、新たな必要性に対しても「バイヤの管理工数、業務工数を減らす」ための取り組みとして新たな価値をもっているのです。
CSR調達や持続可能な調達といっても、全く新たな取り組みとして位置づけるより、従来の延長線上で従来業務との関連性を見いだせるかどうかが鍵になります。両者を別ものとして扱うのではなく、同じステージでどのように演じて1つのストーリーにするかを考えてみてください。QCDがあるからとCSR調達や持続可能な調達の実践から逃れられる時代は終わりました。限られた時間の中で、どのように着実に成果を挙げるかを目指してください。