巻「闘」言(坂口孝則)
※こちらの本文は、ここからの引用です。
調達業務に従業する者として知るべき内容は何か。
これを多方面から解き明かすための「The調達」シリーズも2022年版を迎えました。今年も無事に発行できたのを嬉しく思います。
この無料冊子をお読みいただければ、調達業務として必要な関連知識を知れるはずです。ぜひお楽しみください。
これまでも「激動の時代」と言われてきました。しかし、令和の現代はまさに激動と呼ぶにふさわしい。この冊子がみなさんの調達戦略に一助になればと願っています。
ところで、やや難しい話なんですが、お付き合いください。みなさんは、こう思ったことがありませんか? 歴史というのは必然なのだろうか、と。それとも偶然の重なりなのだろうか、と。
たとえば小泉純一郎さん(元首相)がいます。彼はたまたま日本に登場したけれど、彼が登場しなかったら日本は変わらなかったのでしょうか。なお小泉さんはあくまで一例です。小泉さんを述べたいわけではありません。あくまで歴史の推移を趣旨とした話です。
思想史的には、歴史主義と社会工学主義といった二つの考え方があります。
歴史主義とは、たまたまそういう人が登場しなくても、違う誰かが登場して、時代を変えたという考え方なんですね。だからさきほどの例で言えば、小泉純一郎さんが登場しなくても、数年の違いはあっても似た違う誰かが登場して日本を新自由主義に導いたはずだと考えます。
歴史主義とは、歴史の大きな流れには抗えず、短期的なズレはあるかもしれませんが、大局では同じことが起きるとする考えです。
それに対して、社会工学主義は、人間の叡智と科学で社会を良い方向に導けるとします。社会をデザインでき、一人ひとりの力によって優れた社会が作られるとするものです。
どちらが正しいのでしょうか。それはわかりません。ただ、私はどちらかといえば、社会工学主義的な考えを抱いてきました。しかし、コロナ禍は私に反省を促しました。
というのも、やはり歴史主義的に日本の敗北は必然だったのではないか。コロナ禍は、新たな問題を日本に突きつけたというよりも、古い問題を加速した感があります。
例えば日本の産業界が揺らいでいますが、ずっと前から構造改革が進まない日本を嘆く人はたくさんいました。日本が世界から経済的な後塵を拝したり、半導体や原材料を買い負けたり、政治の弱体化、会社員の給与は伸びずに会社員が愛社精神を捨てていくさまは、はるか前から予言されていた「将来」でした。もちろん良い変化もあります。テレワークの普及も、以前から労働環境を変えねばならないという問題意識がコロナ禍で具現化しただけではないでしょうか。どちらにせよ歴史的には必然だった気がします。
ここでややこしい問題提起をせねばなりません。私たちは、歴史主義的には日本の衰退を諦めつつ、自分や自社だけでもマシな方向に転換できると社会工学主義的な思想も持つ必要があります。
社会や世界の責任だと嘆いて状況が改善するなら100万回でも嘆けばいい。でも嘆いても改善しない。とすれば、最悪な状況や最悪な国を前提として、「それでもなお」と社会や状況をハックする思考・志向こそが大事なのです。
産業も業界も絶望的な状況かもしれない。「それでもなお」自社だけでも、「それでもなお」自分だけでも生き残る方法はないか。抜きん出る方法はないか。日本はガラパゴスで酷い状況かもしれない。 「それでもなお」 、自社の調達はガラパゴスかつデフレゆえに安価に実現でき、自社商品の販売価格は高く設定することによって、収益と利益ともに確保する道はあるでしょう。
では、「それでもなお」と改善や改革の方向に向かうためにはどうすればいいか。まずは状況を「見ること」「知ること」。その後に何をすべきか「考えること」が欠かせません。
繰り返します、社会や国が悪いと嘆くのではなく、その状況を逆利用してやろうという意思が必要です。
そこで、その意味でも「The調達2022」が役に立つと信じています。2022年にこのような言葉を、巻「闘」言として述べるとは思いませんでした。
絶望からはじめよう–。
2022年1月