2022年に調達部門が考えるべきこと(坂口孝則)

※こちらの本文は、ここからの引用です。

この冊子で書いた私の原稿(「2022年への視座~坂口孝則View」)では「代替と分散問題は別の項でも、再度、取り上げてみたい」と書いた。

そこで改めて本稿で説明したい。2021年でサプライチェーンに影響を及ぼしたトピックスをあげ、私たちへの教訓を記してみたい。

①ベトナムの停滞

ベトナムは原稿執筆時点(令和3年12月)でも新型コロナの新規陽性判明者が一日15,000人ほどいる。約1億人の人口がいるため、日本のそれとくらべても高い水準であるとわかる。

2021年の夏ころから拡大傾向にあり、工場の閉鎖に至るところが増えた。結果、ベトナムのサプライヤからの注文のキャンセル依頼や、納品の遅延が相次いだ。

またベトナムでは港でも同様の問題が生じた。ホーチミン港では貨物の滞留時間が延びた。労働力も最盛期の半分ていどに下落した。

ベトナムはかつて中国の代替国として、部材等の調達先やアッセンブリ先として選定されていた。

しかし新型コロナの影響で、アジアからベトナムに新規労働者たちが集まれなくなり、労働力不足がさらに本格化する可能性がある。

製造業はいうに及ばず、世界的なスポーツウェアブランドはベトナムの製造力に依存している。

多くの企業が潜在的な売上を失う結果になった。

ベトナムでは工場は10月から徐々に再開している。とはいえ、オミクロン株の影響は不透明であり、かつ労働者不足が解決する糸口はまだ見えていない。

②インドの停止

中国からの代替の意味ではインドにも不幸が襲った。このところは一日の新規陽性判明者が一日8000人ほどに落ち着いているが(同国の人口は約14億人)、5月ころは一日40万人ほどの数だった。

検査を実施していない数も相当数に登るとすれば、その何倍もの陽性者がいたのだろう。

医薬品の成分の80-%はおもにインドか中国で生産されている(https://www.finance.senate.gov/chairmans-news/grassley-urges-hhs-fda-to-implement-unannounced-inspections-of-foreign-drug-manufacturing-facilities )。

米中経済戦争の狭間で中国からインドに供給元を移管させる動きがあったが、新型コロナによってインドの生産状況が悪化するにともなって、ふたたび中国にサプライチェーンを切り替える動きがあった。

サプライチェーンの見直しが逆転したかっこうだ。

なおインドはグリーン水素の生産を拡大し、大規模な投資計画を発表している。

現時点でも生産しているが、2021年にはさすがに自動車産業向けの生産を一部停止し、新型コロナの患者向け医療用に振り向けた(このこと自体は当然ではあっただろう)。

その他、工業機器、アパレル、部材等がインドからの調達品が停止したり、サプライチェーンが混乱したりした。

③中国の各都市封鎖

中国は2020年の段階で新型コロナが蔓延すると同時に、蔓延した都市を封鎖し、他都市に影響させないような政策を取ってきた。この良し悪しは置くとして、いわゆる強権的な政策によってサプライチェーンに影響があった。

香港では8月に新型コロナの症例が報告されるとともに貨物の輸送が制限された。中国では安全な地域とみなされるまで厳格な対応が続き、貨物関連の労働者は、働く週、検疫の週、自宅待機の週、などが設定された。こうすると単純に労働力が1/3に縮む。

各社は対応として中国南部にフライトを迂回させたり、西部に行かせたりした。

なお香港は一例であり深セン、寧波などでも同様の事態が起きた。

北京オリンピックが2022年に待ち構えているが、それを成功させるため、オミクロン株が見つかれば「症例の発見→都市の封鎖」が散発する可能性が高い。

④米国のハリケーン等

今月(12月)にケンタッキー州では竜巻の被害が深刻だった。amazonの倉庫が崩壊したのも記憶に新しい。

しかし、これだけではなく米国には2021年にいくつもの自然災害が襲った。8月にはルイジアナ州を襲ったハリケーンがサプライチェーンに大きな影響を与えた。

ニューオリンズ港は閉鎖され、鉄道も停止した。また大手メジャーの製油所が止まることによりエネルギー供給も止まった。さらにハリケーンは電力の供給も止め自家発電をもたない企業や住民はなすすべもなかった。

その後はトラックの配送料が上昇していった。

またカリフォルニアでは山火事の被害が大きく、日本でも報じられた。積雪が少なくなり、乾燥する時期が続き、山火事の発生が頻発した。

カリフォルニアでは例年の倍ほどの火災が生じ大きな面積を焼いた。サプライチェーンではトラックが迂回して配送せざるを得ず、さらに山近くの倉庫の見直しが進んだ。

◆ ◆ ◆ ◆

ざっと2021年のトピックスをあげた。①②は新型コロナの関連、③も新型コロナの関連だが中国の体制をあらためて注目させた。また④は地球温暖化などの気候変動と結び付けられる。

まず①②はサプライチェーンの関係者に、さらに調達先やアッセンブリ先の分散化を意識させた。

調達品の完全な分散化は難しい。

ただ米国のように重要物資や重要部材については国内生産等も検討が必要だろう。

中国に対するオルタナティブとしてベトナムやインドを設定しても、そこが寸断してしまうリスクは当然ながらある。

また③はいわゆるカントリーリスクに属するものだ。現在、サプライチェーンの調達先としても販売先としても中国を完全に切り離すのは難しいかもしれない。

 

中国は電力不足やウイグル自治区の人権問題もくすぶっている。また火力発電の多い中国で生産した各種製品を脱炭素の観点から欧州が受け入れていくのかまだ不透明な側面もある。

ただしこれも①②とおなじく中国リスクをまずは把握すること。そして分散の方向で検討していくしかない。

最後に④は米国の例を取り上げたとは言え、全世界的な傾向ととらえたい。九州でも多くの台風が通過し物流網が寸断した。

また世界での異常な熱波なども多く報じられている。それぞれの国の異常気象を正確に予想することはできない。

シミュレーションといっても限界があるだろう。しかしサプライチェーン上の気象リスクをできるだけ想定し、対抗するリスクヘッジ策を取らねばならない。

実際に多くの企業では、緊急時を考えて在庫を積みましているのは書いたとおりだ。

かつて私の敬愛するダン・ケネディ氏は「1」という数が一番悪いと述べた。

一つだけの販売先、一つだけの製造工場、一つだけの調達先。それらに依存するのはきわめて脆い。

すべて「1」が悪いのだ。企業でも「一本足打法」として批判されるように、一つしか頼るところがないと危機時にはとたんに危うさを露呈してしまう。

そう考えると今回の①~④は分散の徹底の時代を象徴しているように私は思える。

これはきわめて凡庸な結論だ。

しかし、2021年はこれまでの懸念を加速させた年だといえるのではないだろうか。

凡庸でつまらない結論にこそ真実があるに違いない。

◆ ◆ ◆ ◆

そして結論を具現化するためには、とにかく先に先に調達部門が動くしかない。リスクを先回りして、代替調達先を模索する動きが重要だ。

リスクマネジメントはもはや想像力と同義になっている。

マルクスは、問題として設定できるのであれば、それは解決すると述べた。あくまで設定できる想像力が必要なのだ。

同様に、調達部門がリスクとして認識できる対象であれば、それはリスクヘッジが可能かもしれない。これから世界で何が起きるのか。それを想像することは全社のリスクヘッジにもつながる。

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