令和の私的な迷言・流行語(坂口孝則)
※こちらの本文は、ここからの引用です。
ノミネート『嘘だと言ってくれ(うそだと・いってくれ)』
昨今では自社だけではなく、取引先を含めて人権を遵守せねばならない。そこで各社とも直接の取引先だけではなく、その先、さらにその先の取引先も調べている。
問題となるのが、その先に中国ウイグル自治区やコンゴ民主共和国の企業がいる場合だ。両方とも人権弾圧で知られる。問題は、短期的に打つ手がない点にある。調査した後の担当者は断末魔のように叫ぶ。
ノミネート:『ブカブカ(ぶかぶか)』
VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)は未来を予測できない状況を指す。不透明な時代に強い組織を作らねばならない、といった文脈で、ビジネス界隈でよく使われた。ただVUCA自体が曖昧で何も言っていないに等しい。コンサルタントも使ったが、「ブカブカ言うな」といわれる始末。
ノミネート:『カボネガ(かぼねが)』
企業の企画部門がカーボンニュートラルの先にカーボンネガティブを打ち出している。これはCO2排出をゼロにするのではなく、吸収や貯蔵によってむしろ減らしていく試みだ。しかし技術的には未確立であり、将来へ約束するのは危うい側面を残す。ある企業人のコメントが印象的だった。「2050年に向けてカーボンネガティブを約束します。ただ約束を守る約束はしておりません」。
ノミネート:『DXおじさん(でぃーえっくす・おじさん)』
何かというとDX(デジタル・トランスフォーメーション)が話題になった。業務のデジタル化だけではなく、ビジネスモデルの改革も含むはずの同単語だが、どうやら一般的には打ち合わせのオンライン化や脱ハンコくらいの意味で使われている。とりあえずDXと言っておけば免罪符になる年だった。DXを叫びながら電話をかけまるおじさんに注意を。なんでも横文字で解決しようとする姿勢は怪しい。
そういえば、今年「御社のドメインのオポチュニティーをマキシマイズしつつ、弊社のユニークネスを御社とミックスし対顧客コミュニケーションをアクセラレートし……」と売り込みを受けた。殴ってやりたいと思った(自主規制)。どうせならジャニーさんみたいに「御社」も「ユー」って言ってくれよ、ユー。
ノミネート:『マスク・サプライズ(ますく・さぷらいず)』
先日、某社の方と飲んだら、異動してきたばかりの方がいた。私のマスクを外した素顔はテレビで見たことがあったらしい。ただ、同席した同僚の素顔を初めて見たと驚いていた。私はあるのに同僚はない! 素顔を見られないこの2年で、あったはずの社内恋愛の多くが失われただろう。マスクが常態化すると、マスクを外した姿が猥褻とすら感じるこのところだ。