2022年の値上げ対応(牧野直哉)

2021年はあらゆる品目が「値上げ」された1年でした。「値上げ対応」の観点では、「値上げ」の要因が、人件費や物流費と巡り一周回って「原材料」に回帰した1年でもありました。2022年も残念ながら継続し直面するサプライヤからの値上げ要求。今改めて原点回帰が必要です。調達・購買部門/バイヤの基本業務である情報力や価格査定力、交渉力を複合的に駆使しましょう。

2021年ほぼ毎月のように新聞紙上をにぎわせた記事は、日経42種や企業物価指数の右肩上がりの変動です。日本には原油価格の上昇の影響を受けやすい=地下鉱物資源やエネルギーを海外依存度の高さや、中国に代表される購買力の強い国による爆買いといった要因があります。

この2つの要因について改めて考えます。地下鉱物資源をほぼ100%輸入に依存し、自国産出できないため、国際市況の変動影響をもろに受けること。世界第3位の経済大国とはいえ、第2位の中国とは大きな差をつけられ、相対的に国際マーケットで取り引きされる原材料について購買力の減退の真っただ中にいます。調達・購買部門/バイヤはこの2点を直視しましょう。過去と比較してもマクロでは購入条件の維持は非常に難しい中、企業レベルでどう対応するのか方法論を検討する必要があるのです。

変動影響の「度合い」の的確な見極めです。確かに日経42種や企業物価指数は驚くほどに右肩上がりだった2022年でした。しかし数値が右肩上がりでも、個々の企業の調達・購買部門における購入価格の推移が同じように右肩上がりにはなりません。それらの指標は様々な品目の価格推移の合計値であり平均値です。購入品の価格変動は、総合的な指標から踏み込んだデータ確認がなければ値上げすべきかどうかの正しい意志決定はできません。

毎月日本銀行から発表される「企業物価指数」を例にします。私たちが目にするニュースで報道される内容は、全8ページの報道発表資料の中でも表紙の部分に掲載された情報のみです。 2 ページ以降も参照すれば、発表される3つの指標、国内企業物価指数、輸出物価指数、輸入物価指数に加え、それぞれに含まれる各「類別」が総合指標に寄与した割合が明示されています。

例えばこの原稿を書いている時点で最新の2021年12月発表(2021年11月実績)によると、原材料としての輸入に該当する輸入物価指数(契約通貨ベース)で石油・石炭・天然ガスは+3.71%です。一方で国内企業物価指数の石油石炭製品は+0.17%。石油・石炭・天然ガスに関連して、電気やガスの料金に輸入時点での価格を反映するのは数か月先と言われています。仮に6か月間のタイムラグがあるとします。6か月前の石油・石炭・天然ガスの変動幅は+0.05%でした。こういった数値を羅列してみても、サプライチェーン上流の価格変動が私たちの購買活動にどのように影響するかはなかなかわかりにくいですね。だからこそ、誰もが簡単に入手できる資料から自分が担当する購入品データを継続的にチェックする「定点観測」が重要なのです。

昨年問題になった原材料費の高騰に対しこの記事を読んでいる全てのバイヤは、原材料費の価格そのものに対する影響力はないでしょう。影響力が及ぼさないから何もしないのはダメです。変動の影響がどのように具体的に私たちの購入品に及ぼされるのか、その見極めを正しく行うことが今こそとても重要になっているのです。こういった主張は、 2000年代初頭に原材料費の高騰が目に見えて起こったときに盛んに行われました。その後、私たちの購入品は、人件費や輸送費といった様々な要因によって値上げ要求を受けてきました。私が冒頭に「一周回って」と表現しました。過去の原材料高騰の場面で有効だった取り組みが、十数年のときを経てやはり同じように重要性を持っているとの意味です。

定期的に発表される指標を継続的にチェックするのは、簡単なことではありますが継続する難しさは私も痛切に感じています。だからこそ皆さん1人がそういった取り組みを行う必要はありません。調達・購買部門の「組織」で働いているのであれば、同僚のみなさんで分担してデータを収集する。データを共有してサプライヤに対じしていくことが今求められているのです。

昨年問題になった「原材料」の価格変動。基本的な対応策は、購入品に含まれる原料や材料の割合を明らかにする。変動幅を決定する指標についてサプライヤと合意する。最終的な値上げ幅を決定します。ここでいつも繰り返し問題になるのは、サプライヤからの不十分な情報開示です。顕著な例としては、バイヤが再三再四見積明細書の提出を要求しても拒否される。あるいはのらりくらりとごまかされるケースです。

このような状況にはバイヤの「査定力」を活用します。自ら購入費に含まれる原料や材料の割合を算出し、適正な値上げ幅を明確にするといった対応がありました。自ら査定する重要性は色あせていません。しかしこれからは「査定力」の活用に加えて、別の観点からサプライヤに対し情報開示を求める必要性が高まっています。

昨年も大きな話題となったDX(デジタルトランスフォーメーション)。調達・購買業務のDX化をテーマにしたセミナーやカンファレンスを目にする機会も増えました。調達・購買部門が取り組むDX化は、まず業務にまつわるデータの取り扱いです。例えば従来サプライヤ評価はQCD(Quality:品質の向上、Cost performance:低コストの実現、Delivery Date:必要な時期に届ける)を基軸として、S:サービス、D:開発といった要素を加えて行っていました。こういった基本的なサプライヤ評価の要素は変わりません。 今後はデータの共有「範囲」をバイヤ企業とサプライヤが協力して拡大する。相互に同じデータを共有・参照しながら業務を進めるといった取り組みが、サプライヤを包含した調達・購買部門におけるDXのあるべき姿の一例と考えています。

見積書の明細となるコストデータ共有によって、バイヤを悩ませる値上げ交渉や、市況変動によって発生する価格の変動への対処に要するバイヤ負荷が減少します。この取り組みには、バイヤ企業とサプライヤとのあいだで「価格の決まり方」の合意が必要です。価格の決まり方の合意には、従来よりも一歩踏み込んだ情報共有が欠かせません。市況変動に伴う価格交渉は、従来バイヤ業務の根幹をなす重要業務でした。しかし原材料の市況変動は、一企業のバイヤやサプライヤの営業パーソンが影響力を行使できません。市況変動のあおりによって右往左往するのであれば、その変動による影響の出方をバイヤ企業とサプライヤで合意して、影響を小さくする取り組み協力して成果を出す、そう言った関係性を構築することが調達・購買部門の役割になってくるのです。

少しでも安価な原材料を探したり、原材料の歩留まり改善するアイディアを双方で検討して実現にこぎつけたり、わかりやすい言葉で言えばVE/VAといった取り組みがバイヤ企業とサプライヤ共同での実践が、本来注力すべき取り組みなのです。そのためにはQCD(Quality:品質の向上、Cost performance:低コストの実現、Delivery Date:必要な時期に届ける)に加えて、バイヤ企業とサプライヤの広く深い情報共有が、あらゆる品目が値上げせざるを得ない今日の1つの解決策となるはずです。したがってバイヤ企業のサプライヤ評価も、QCDだけではなく、どの程度情報を開示して共有できるかが調達・購買部門のDX化であり、値上げ対応の新たなスタイルと言えるのです。

DX化とは、調達・購買部門に限らずつかみ所が難しい話です。ただ陳腐化したレガシーシステムを更新するだけの話ではありません。ぜひ調達・購買部門が直面するレガシーな課題をDX的な視点で解決していただきたい、そんな2022年にしてください。

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