不足問題(牧野直哉)

1つ目は最も深刻な「人手不足」です。しかし単純に労働力が不足しているのではありません。2011年10月のデータでは完全失業率が2.7%です。新型コロナウイルスの流行が顕在化する前、2019年末には2 %台前半であったことを考えると、人手不足は緩和される可能性があります。しかし「不足」に関するニュースを見ると、次から次へと品を変えてあらゆる品目に波及しています。単純な人手不足=労働力不足ではなく、やってほしい仕事に対して実行できる労働者が不足、いうなれば人材が不足しているのです。

人手不足であり人材不足を解消するには、採用と教育両面での対応が必要です。仕事ができるスキルある労働者を採用できず苦労している企業が多い。そもそも日本企業は就職ではなく「就社」でした。私自身も大学を卒業する際、入社する会社は決めました。しかしどんな仕事をするかは会社に入ってから決まりました。このような人事管理だと、継続的に社員を確保しつつ、確保した社員に業務実行に必要なスキルを獲得させる仕組みが必要です。いわゆる新卒一括採用と職場配属後のOJTです。

ところが「人手不足」は、企業内におけるOJTの機会を奪っています。また中小零細企業ではなかなか社員の頭数の確保もできない事態に陥っています。人手不足に関してサプライヤを確認すべきポイントは、従業員の平均年齢の推移です。平均年齢が一貫して上昇している場合は、将来従来と同じ供給ができなくなる可能性を示しています。サプライヤからサプライヤたれ自社の事業運営に支障が生じるサプライヤには必ず対処が必要です。現時点で労働力不足による供給の滞りが発生している場合、しっかり原因を調査した対処が必要です。サプライヤの労働者に起因して具体的な問題解決の手だけが施されていない場合、新たなサプライヤの探索が欠かせません。

2つ目は、バイヤー企業とサプライヤのコミュニケーション不足です。調達購買部門とサプライヤの関係で、新型コロナウイルス流行が最も影響しているのはコミュニケーションの量と質です。確かに新型コロナウイルスの流行が事業に与える影響を読み切るのは困難を極めるでしょう。サプライヤの発注量が増えるのか、減少するのか維持されるのか。こういった数量見通しの情報が、新型コロナウコロナウイルスのようにサプライヤに提供されていたか思い出してみましょう。

調達購買部門のバイヤーからすれば、できるだけ在庫は抱えたくない。発注内容が変更する事態を想定すれば、調達リードタイムをギリギリで確保できるタイミングで手配が行われていました。サプライヤの営業パーソンから見れば、発注確定は調達リードタイムがギリギリ確保できるタイミングでしか行われません。優秀な営業パーソンは、購入要求部門や生産管理部門と直接コミュニケーションを通じ、円滑納入するための情報を得ていました。サプライヤの営業パーソンのフォーマルなバイヤー企業窓口は調達購買部門です。打ち合わせの同席をきっかけとして、社内関連部門ともインフォーマルではあるもののコミュニケーションし、様々な情報を融合させて自社に必要な情報収集を行っていたのです。

新型コロナウイルスの流行は、インターネットを活用したWeb会議が一気に広がったメリットもあります。一方たまたま通りかかって行う立ち話といったインフォーマルなコミュニケーションが失われました。調達購買部門は、意識をしなくてもサプライヤの営業パーソンと定期的にコミュニケーションをとっていたはずです。しかしWeb会議は時間を決めて出席者を招待しなければ実現しません。残念コロナウイルスナウィルス流行の影響は2022年も継続するでしょう。サプライヤとのコミュニケーション不足によって、モノやサービスの納入不足を起こさないためには、購入見通し情報を的確なタイミングでサプライヤに伝える必要があります。これまでインフォーマルな形・ルートで行われていたコミュニケーションを含めて、購入見通し情報を明確に調達購買部門からサプライヤに伝える取り組みが今、コミュニケーションミスによる情報不足を起因とするモノやサービスの不足防止には欠かせないのです。

3つ目は需要と供給のミスマッチです。供給能力に対して需要が過大になった場合に発生します。新型コロナウイルス流行当初に、マスクやティッシュペーパー、トイレットペーパー、消毒液が店舗の陳列棚から消えました。新たな環境=新型コロナウコロナウイルスに対処するための需要急拡大で発生しました。

需要と供給のミスマッチは、なぜ発生したのか「原因」を把握しなければ対処できません。もモノやサービスの供給は「効率性」を考える時、一定の数量の継続的供給が最も安定します。「ミスマッチ」とは、需要もしくは供給の「変動」が大きな要因です。一昨年と昨年の変動要因を考えれば、一昨年から続く新型コロナウイルス流行が大きく影響しています。「不足」ごとに、サプライチェーンのどの部分に影響したかは異なっているのです。

2021年春先から「ウッドショック」と呼ばれ大きな問題となった木材不足は、1つの要因として新型コロナウイルス流行によるすごもり需要による住宅着工件数拡大が挙げられました。米国の住宅着工件数は、2020年第一四半期は落ち込みました。以降、多少の変動はあるものの過去10年間の推移と比較しても非常に高い水準で推移しています。加え私たちの日常生活維持に必要な職業=エッセンシャルワーカーが、新型コロナウイルス流行によって仕事ができなくなった事態も影響しているのです。エッセンシャルワーカーの問題は、物流混乱の一因にもなっています。こういったグローバルの状況に加えて、日本国内の供給元は当初、海外からの木材輸入減少に対応し供給能力の拡大をせず不足に拍車をかけました。

需要と供給のミスマッチは、単純にひとつだけの原因では発生しません。いくつかの要因が絡み合って発生します。こういう事態に対処するためには、2つ目の不足理由として挙げたサプライヤとのコミュニケーションが非常に重要です。2022年は従来とは異なるスタンスでサプライヤに需要情報を提供すること。同時に供給能力や見通しに関する情報を今まで以上に積極的に入手する必要があります。

「これまでと異なるスタンス」とは、バイヤー企業における発注数量リスクの負担です。昨年来調達購買の現場で問題になっている様々な調達品の不足は、1990年代後半から行われたサプライチェーン管理手法が、経済環境とミスマッチを起こしているのです。サプライチェーンマネージメントが日本に紹介された当時、当時パソコンメーカー「デル」の「BTO(Build To Order)」の仕組みが盛んに紹介されていました。受注してから組み立てを開始。短いリードタイムで顧客に届け、完成品在庫はゼロ。部品在庫も4日分しかもたないモデルは、サプライチェーンマネージメントに取り組む製造業者の手本とされていました。

この手法では、強大な販売力を武器にして、実質的な調達リードタイムの在庫負担をパソコン部品メーカーに負わせています。Just in Timeを標榜する自動車メーカーでも、部品メーカーに目を向ければ原材料や部品の在庫を抱えています。デルモデルには素晴らしい部分もあります。「サプライチェーン全体にわたって正確に情報を共有すれば、物理的な在庫を必要以上に持つ必要がなくなる」といった考え方です。デルモデルは①ダイレクトモデルをベースする商流 ②サプライチェーン全体にわたって情報共有を進める基盤整備 ③高度な物流管理の3つで構成されていると筆者は考えています。この3つのモデルで、今こそ調達購買部門がサプライヤと協力して不足に対処するためには、情報共有を進める基盤整備に取り組むべきです。

これまで調達購買部門はできるだけ発注数量の確定を遅くし、自社の在庫リスクヘッジを行ってきました。在庫を「罪庫」としてできるだけ持たないといった考え方が根底にあるでしょう。バイヤー企業であっても顧客が存在します。顧客からの需要情報が確定しないため、サプライヤに正確性の高い数量情報が出せないといった現実もあるでしょう。ここで2022年、調達購買部門が取り組むべき課題は、サプライヤではなくむしろ社内の情報流通にあると考えるべきです。顧客の需要情報を、営業部門を通じしっかり把握してもらう当たり前の取り組みを今こそ実践するタイミングなのです。営業部門に対しては、情報の早期入手とともに、より正確なの高い情報入手を依頼します。正確な情報提供の代償は、限られた供給能力の優先的な振り向けです。そもそも「早い者勝ち」の考え方は、最も説得力の高い主張であり、理由づけであるはずです。より確実な納入を求める顧客には、より正確性の高い情報を要請する。正確性の高い情報によって、サプライヤにも正確な情報を提供し、早期に購入確定ダメージできれば、調達購買部門の新たな武器になるはずなのです。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい