調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 2章(1)-1
3月22日月曜日。週明けから田中雅人は苛立っていた。ニュースでは、一社集中のリスクを報じていた。日本企業は1社からの調達を是としてきた。関係性の構築には利点があっただろう。しかし、災害には脆い。1社集中によってコスト削減を進めてきたツケがまわってきた。一部のメディアはそう報じていた。田中は、何もわかっていない、と思った。
欧米企業であれ、単一部材に複数の調達先を用意しているところなどない。一部の材料や標準部品であれば、マルチソース化(単一部材に複数の調達先を用意しておくこと)できる余地はある。しかし、何万点もある部材のすべてをマルチソース化することなどできない。また、JIT生産の脆弱性を述べる記事もあった。たしかにJIT生産はサプライヤー1社でも綻びが出れば全体に波及する。ただし、JIT生産が高利益・低コストを支えてきたことは疑い得ない。重要なのはJIT生産の脆弱性を少しでもなくすことだ。JITか非JITか。そんな存在しない二項対立ばかりがメディア上で報じられていた。
さすがに社内では1社調達だったことを責められることはなく、いかに復旧させるかが共通話題となった。田中は、内容がすべて書き換えられた手帳を眺めていた。そこには、朝から晩まで「緊急対策会議」と銘打たれた打ち合わせが続いていた。
震災から1週間経ったあと、多くの企業では出口の見えない対策会議を開いていた。西城の会社では毎日13:30より全管理職が調達事務所前に集まり、情報ボードとにらめっこをしていた。毎時間のように移り変わるサプライヤー生産状況と出荷情報。そして、それをもとに従業員の勤務体制を固め、2日後の自社生産を決定していた。「何がダメなんだ? 何が入らないんだ?」と質問が飛び交い、ため息と、ときに安堵の声が交錯し続けた。やっとある調達品が確保できたかと思えば、他の部品が遅延する。たった一つの部品が足りなかったとしても生産はおぼつかない。市中在庫はないか、サプライヤー生産は問題ないか。情報ボードには、手書きで真っ黒になっていた。