調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 1章(2)-7

このころ多くのバイヤーが社内会議で次の質問にあい答えに窮している。「どの調達品が大丈夫で、どれが問題なのか」。わずか数日で情報収集したものの、それが完全であるという確信はない。事実、問題がなかったはずのサプライヤーから、原材料メーカーの生産が止まって生産がおぼつかないと連絡が次々に入ってくる。

加賀はこう切り返すしかなかった。「そんなもんはわかりません。情報収集の途中なんだから」。多くの調達・購買部門にとって、対処すべきはサプライヤー災害だけではなく、社内調整だった。外村は引き続き社内からの納期確認電話におわれていた。他のバイヤー企業よりも早くモノを確保できるか。それだけが社内から求められていた。

牧野はこのとき、あるサプライヤーからのコメントを社内会議で読み上げることによって、社内を静めるのに成功している。

「私たちは供給に関して全力を尽くします。ただ、震災の影響ゆえに、震災前と同等の生産状況ではありません。生産できた量に関しては、発注シェアに応じて適正かつ厳粛に配分いたします。お客様による差別はいたしませんので、ご容赦ください」。牧野はこう付け加えた。「現在の危機下においては、他社より先んじろうとするのではなく、日本全体で分け合うことが必要ではないでしょうか」。

牧野は無言になった会議室の様子を覚えている。

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